マシュー・スティーヴンス、来日直前インタビュー『Preverbal』はいかに作られたか

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マシュー・スティーヴンス(1982年カナダ生まれ)の最新作『Preverbal』(2017年、全曲試聴はこちら)はオーケストラのように緻密に重ねられたギターやサンプリングのテクスチャー、「即興」と「作曲」の境目を感じさせない優れたアレンジ能力、エリック・ドゥーブの繰り出す最新鋭のビートなど、聴きどころが満載の作品だ。一方で、スティーヴンスは日本ではサイドマンとしての評価をすでに確立しているものの、一人の音楽家/作曲家としてはいまだ謎のベールに包まれており、作品のねらいや制作方法はあまり知られていない。今回は8月末の日本公演(予約/詳細)を控えた彼に、そのあたりの意図を詳しく聞いてみることで、ライヴや作品をより分かりやすく、より深く鑑賞できるように取材してみた。
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協力: インパートメント

Q: あなたは20代の時はサイドマンとしての活動が有名でしたよね。30歳くらいからリーダーアルバムの制作を始めたきっかけは何ですか。

Matthew Stevens: 私は学生時代からずっと作曲を続けてきました。20代の頃は様々な試行錯誤やギターを使った実験をして、音楽の中で何が最も重要かを考えたり、自分なりのパースペクティヴを見つけることに費やしてきました。『Woodwork』(2015年)を制作した時には、レコーディングをして自分の音楽観をいろいろな人にシェアしたいと強く望むようになっていました。今現在はできるだけ多くの新作をリリースできるように打ち込んでいます。

Q: ご自身でアルバムを作るようになって即興演奏のスタイルも変化しましたか。

MS: 変わりません。私の即興スタイルは以前もこれからも、(モチーフを)変形、拡大、縮小することによって、時間とともに絶えず展開する一つの長いインプロヴィゼーションだと思っています。

◆『Preverbal』収録曲”Picture Window”。ミニマル、アンビエント・ミュージックなど様々な要素がないまぜになっている。

Revive Musicのインタビューによると『Preverbal』の楽曲は譜面を書くのではなく、ドラマーのエリック・ドゥーブと共にデモテープを録音することによって生まれたという。譜面を書かないのは、演奏前に楽曲の印象を頭のなかで決めつけてしまうことを避けるためらしい。本作の独特な音響美の秘密はそのデモにあると思い、どのように制作したのか聞いてみることにした。

Q: 『Preverbal』に出てくるメロディやリズムフィギュアは、デモテープ収録時に即興的に作られたものですか。それともデモ収録前にかなりの割合のモチーフやリズムを作曲していましたか。

MS: 最初のデモ制作の前には、メロディーやハーモニー、ベースライン、そして基本的なドラムの枠組みを作曲していました。楽曲を手直して内容の異なるデモテープがいくつもあるため、アルバムの演奏は「デモの再現」という訳ではないんです。ドラム・プログラミングと、追加されたサウンド・スカルプティングに関しては、私と一緒にアルバムをプロデュースし、また”Knowhow”の共同作曲者でもあるエリック・ドゥーブ(ds)との純粋なコラボレーションと言えますね。

Q: では、実際のレコーディングで「デモの再現」にならないために気をつけたことは何でしょうか。『Preverbal』はとてもに自然に聴こえます。

MS: それについては心配していませんでした。まず第一に、デモの大部分は私がベースを弾いていましたが、レコーディングではヴィセンテ・アーチャー(b)の演奏が新しくフレッシュな響きをもたらしてくれました。また、楽曲の中にはインプロヴァイズが可能な瞬間がいくつもあるので、レコーディングは最終的にデモテープとは全く違うものになりました。

スティーヴンスは過去のインタビューでジム・ホールやビル・フリゼールといったジャズギターの巨匠の他に、カート・コバーンやボン・イヴェール、ケンドリック・ラマーなどジャズ以外の音楽家にもリスペクトを表明してきた。その中でも特に気になった存在、ダニエル・ラノワについて質問してみた。

Q: 『Preverbal』のポスト・プロダクションはダニエル・ラノワにインスパイアされたそうですね。彼のどのアルバムが参考になりましたか?

MS: 確かに彼にはインスパイアされてきました。私はラノワの全てのソロアルバムが大好きだし、同時に彼のプロデュース作品、特にブライアン・イーノやエミール・ハリスのアルバムも好きです。美しく必然的なやり方で、アコースティックとエレクトリックの要素を混ぜ合わせる能力には驚かされています。

◆スティーヴンスの好きなダニエル・ラノワ関連作品。左からダニエル・ラノワ『Black Dub』(2010年)、ブライアン・イーノ『Music for Films III』(1988年)、エミール・ハリス『Wrecking Ball』(1995年)。
Q: それでは最後に、プリヴァーバル収録曲をスタジオではなくコットン・クラブのようなクラブで演奏する際、どのようなことを念頭に置いているか教えてください。

MS: どこで演奏するかは関係なく、どのセットでも『Preverbal』の楽曲を自分が心地よいと思ったように演奏するだけです。この作品は今までの人生の中で最も自分らしい音楽です。そのような心の持ち方は大きな興奮をもたらしてくれますし、また同時に特に気を使わなければいけない弱点にもなります。

今回、マシュー・スティーヴンスはUntitled Medleyのインタビューに要点を押さえながら思慮深く答えてくれた。ジャズの即興と作曲の関係に新たなパースペクティヴをもたらしつつあるジャズギターの新星は、来日公演でも我々を新しい地平に連れて行ってくれるに違いない。

公演情報
会場: 東京 丸の内 コットンクラブ
日時: 8月31日(木)~ 9月2日(土)
メンバー: マシュー・スティーヴンス(ギター)、ザック・ブラウン(ベース)、エリック・ドゥーブ(ドラム)

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◆参考/出典: 現代ジャズ攻略WIKI マシュー・スティーヴンス / Matthew Stevens