音楽ファンが選ぶ2017年のジャズアルバム12選 前編

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今年に入ってからUntitled Medleyでは高いクオリティとビジョンをあわせ持つアルバムを、クロスレビュー形式で紹介してきた。その内訳は以下の通り。

カート・ローゼンウィンケル『Caipi』
ベッカ・スティーヴンス『Regina』
クリスチャン・スコット『Ruler Rebel』
マシュー・スティーヴンス『Preverbal』
ファビアン・アルマザン『Alcanza』
クリスチャン・スコット『Diaspora』
アンブローズ・アキンムシーレ『A Rift in Decorum: Live at the Village Vanguard』

これらの七作品は年末に差しかかった今でも、それぞれ年間ベスト級の作品だと考えている。しかし、今年は上記の七作品に劣らない気合の入ったアルバムが次々とリリースされているのも事実。そのため、クロスレビューだけでは2017年の代表作をフォローしきれないと判断し、追加で12枚を急遽レビューすることにした。選盤はそれぞれのレビュワーに担当してもらうことで、「トレンド的に重要な作品」というよりも「純粋に良い作品」が並ぶように心がけた。この中からひとつでも記憶に残るアルバムが見つかってくれれば嬉しい(タイトルに☆が付いている作品は特にお勧めのアルバムです)。

選盤・レビュー担当者
北澤(Twitter / Facebook
佐藤 悠(Twitter
よろすず(Blog / Twitter / Bandcamp
福田葉介(Twitter / YouTube

※アルバムタイトルをクリックすると通販サイトにジャンプします。


Vijay Iyer – Far From Over ☆
ECM Records (2017)

Vijay Iyer (p, rhodes), Graham Haynes (cornet, electronics), Steve Lehman (as), Mark Shim (ts), Stephan Crump (b), Tyshawn Sorey (ds)
ヴィジェイ・アイヤーの最高傑作
痙攣するようにピアノを打鍵するアイヤーと、アメーバ状に広がっていくドラミングのソーリーが組み合わさることで、解釈の幅が極めて広いグルーヴが生まれ、その時点でもう一味違う作品だと分かる。その上に「Mベース」という共通項はありつつも、個性豊かなフロントラインが並んでいる。アルトのリーマンは①と⑩、テナーのシムは⑤と⑨で野性味あふれる凶暴なソロを展開。近年エレクトロニクス作品を黙々と作っていたヘインズの取り組みは④、⑧で結実する。

楽曲はどれもループミュージック的で、アンサンブルは適度に空間が用意され、即興と作曲がお互いを高めあう内容になっている。ダンサンブルかつエレガント。猥雑さとインテリジェンスが同居した本作は、『Accelerando』(2011年)や『Holding It Down』(2013年)に勝るとも劣らないアイヤーの新代表作といえる。ECM特有のリヴァーブ感も抑えめで、生命力が伝わってくるミキシングも好感触。(北澤)


Eivind Opsvik – Overseas V
Loyal Label  (2017)

Brandon Seabrook (g), Tony Malaby (ts), Kenny Wollesen (ds, drum machine), Jacob Sacks (p, org), Eivind Opsvik (b, synthesizer)


ノルウェー出身ベーシストのプロジェクト「オーバーシーズ」の五作目。編成や一人ひとりの個性が前面に出るところはジャズ的だが、よくポストパンクやニューウェーブに例えられる音楽性の通り、ヘンテコなロックアルバムとしても聴ける作品(④はなんとディスコ風味)。流木のようにふくよかな味わいのマラビー(ts)と調子っぱずれなノイズを撒き散らすシーブルック(g)、多彩な音色を操るサックス(keys)と、それぞれのテクスチャが入り乱れリーダーの人を食ったような楽曲に彩りを与えている。(北澤)


Gerald Clayton – Tributary Tales
Motéma Music (2017)

Gerald Clayton (p), Logan Richardson (as), Ben Wendel (ts, bassoon), Joe Sanders (b), Justin Brown (ds)

with: Dayna Stephens (bs), Aja Monet, Carl Hancock Rux, Sachal Vasandani (vo), Henry Cole, Gabriel Lugo (per)


アルバム全体が一つの物語的な組曲になっている点で、ファビアン・アルマザン『Alcanza』と並べられそうな作品。雄大な楽曲と即興すらアンサンブルの一部に思えてくるほど力強いストーリーテリングによって、アフリカの奥地からサバンナへと駆け抜けていくような情景的なサウンドが展開されている。パンを左右に振ったりフィールドレコーディングを被せるなど、現代的なポストプロダクションの手つきも細やかだ。(北澤)


Jason Moran – Bangs
Yes Records (2017)

Jason Moran (p), Mary Halvorson (g) Ron Miles (cornet)


なんとも不思議なメンバーだが、ハルヴァーソンとモランは彼の妻を介して知り合っており、このメンバーでの活動は2012年から断続的に行っていたらしい。半分のトラックを作曲しているモランは演奏では伴奏/コンダクター的な役割に徹し、徹頭徹尾シュールなハルヴァーソンと抑制が効きつつも表情豊かなマイルズの演奏を引き立てている。あやしさとノスタルジアがせめぎ合うアメリカの辺境音楽というべきサウンド。(北澤)


Yaron Herman – Y
Blue Note France (2017)

Yaron Herman (p, key, vo), Bastien Burger (b, keys, vo), Ziv Ravitz (ds, electronics)

with: Mathieu Chedid, Dream Koala, Hugh Coltman (vo)
広がりのある音響空間を創出
イスラエル出身のピアニストによるブルーノート第二作。ピアノ、ベース、ドラムの三人がシンセやエレクトロニクス、プログラミングを駆使し、ヴォイスを幾重にも重ねることで、広がりのある音響空間を作り出す。ビートが消失した空間に歌声とピアノの残響が漂い、そこに馬の駆け足のようなドラムが入るドラマチックな⑤や、エフェクトによる音の残像を装飾音ではなく演奏と等価に扱い、時間と空間を操って感覚を揺さぶる⑥はあまりにも鮮烈。クラシックのように両手で二つのラインを並走させる②ではピアニストとしての個性を十全に発揮している。ゲストの歌と鍵盤だけで作られ、声とシンセが交わる⑦はアルカのヴォーカル作品のように聴こえる。(佐藤)


Shai Maestro – The Stone Skipper
Sound Surveyor Music (2017)

Shai Maestro (p, key), Jorge Roeder (b), Ziv Ravitz (ds)

with: Gretchen Parlato, Theo Bleckmann, Neli Andreeva, Kalina Andreeva (vo)
イスラエル出身のピアニストの第四作。ソロを減らす一方、エレクトロニクスを多用し、映像喚起的なサウンドを構築。イスラエルの地域性を感じさせるメロディの強さが印象的だ。ブルガリアの合唱団のメンバーを迎えた⑥にはアジアの色彩も。ピアノの音の減衰を聴かせる⑮まで、多様な曲調で描かれたストーリーに魅了される。(佐藤)


Braxton Cook – Somewhere In Between
Fresh Selects (2017)

Braxton Cook (vo, sax, key), Mathis Picard (p, rhodes), Andrew Renfroe (g), Joshua Crumbly (eb), Jonathon Pinson (ds)

with: Lauren Desberg (vo), Samora Pinderhughes (p)


クリスチャン・スコットのバンドで活躍するサックス奏者の第一作。自身の爽やかなヴォーカルも交え、ジャズ〜R&Bの間の心地良いフィーリングを聴かせてくれる。サウンドは現代的で、攻めるドラムを始めに演奏はフレッシュ。⑩でのゲストのサモラ・ピンダーヒューズによる、音色と響きの変化を聴かせるピアノソロが白眉。(佐藤)


Tyshawn Sorey – Verisimilitude ☆
Pi Recordings (2017)

Tyshawn Sorey (ds, per), Cory Smythe (p, electronics), Chris Tordini (b)


作曲と即興との融和が結実

ドラマー/コンポーザーとして活動するタイショーン・ソーリーの6作目となるリーダーアルバム。これまで作品ごとに異なる編成を採用してきたソーリーですが、今作は前々作『Alloy』と同じピアノトリオ編成(メンバーも同じ)。曲毎に異なる作曲家/アーティストからの影響を如実に反映することで、作曲面での特徴の違いがそのまま各曲の色合いの違い、ひいてはアルバム全体の起伏に結びついていたような印象の『Alloy』に対し、今作はシームレスに聴くことのできる75分の演奏の中で和声感覚という面では比較的同じ色合いを保ちながら、パーカッション類の多用やエレクトロニクスの導入によるサウンドの拡張、ソロパートなども設けた演奏の構成や音数とダイナミクスの変化などで起伏を生んでいくような印象で、そういった演奏の面での工夫や手つきが前面に出ることでこれまでの作品で最も自然に即興的に音を出しているような(≒ジャズ的な?)感覚を覚える作品でした。デビュー作から現代音楽などの影響が強く感じとれる作曲に意欲的に取り組みながらも、即興との融和を図った際の作品の出来にはどこか歪さを感じることも多かったタイショーン・ソーリーの諸作ですが、本作はそういった作曲と即興との融和といった面での取り組みにおいてはひとつの結実と見做すこともできそうな、緊張感と滑らかな聴き心地を今までにないバランスで実現した傑作です。(よろすず)


Colin Vallon – Danse
ECM Records (2017)

Colin Vallon (p), Patrice Moret (b), Julian Sartoriu (ds)


スイスのピアニスト、コリン・ヴァロン率いるトリオの現メンバーでは二作目となるアルバム。叙情的な曲調と変拍子やポリリズムなどを用いたリズム面の創意工夫を滑らかに融合させた音楽性が持ち味な彼らですが、今作では特に作曲におけるメロディーの美しさが際立ち、多用されるそのリフレインが耳に残ることで楽曲の成り立ちが把握しやすく、彼らの音楽に初めて触れる方には特におすすめできるような聴きやすさを持った作品となっています。(よろすず)


The Necks – Unfold
Ideologic Organ (2017)

Chris Abrahams (p), Lloyd Swanton (b), Tony Buck (ds)


活動歴30年を超えるオーストラリアのピアノトリオ編成のバンドThe Necksのアルバム。彼らの演奏は全編即興によるものですが、リズムフリーなものではなく、3者それぞれが(おそらく別々の)緩いパルスの下で演奏を行い、その重なりと持続によって同期/非同期を超えたグルーヴのようなものや音の射程がどこまでも伸びていくような感覚を味わわせてくれる独自のものです。今作ではそんな彼らの現在の姿が20分前後の演奏4編という(彼らにしては)コンパクトなかたちで捉えられています。(よろすず)


Theo Bleckmann – Elegy ☆
ECM Records (2017)

Theo Bleckmann (vo), Ben Monder (g), Shai Maestro (p), Chris Tordini (b), John Hollenbeck (ds)


死と超越をテーマに構成された本アルバムはまるで一遍の物語を読み進めていくかのようだ。シャイマエストロの繊細なピアノトリオの上をセオの歌声とベンの歪んだギターがたゆたう。10曲目、ホーレンベックの駆け足と共に翔び立つセオの後姿追いかけ、エピローグのような二曲を聴き終えた時、最も美しい静寂が待っている。(福田)


Phronesis – The Behemoth
Edition Records  (2017)

Ivo Neame (p), Jasper Høiby (b), Anton Eger (ds), Julian Argüelles (arr, conductor), Frankfurt Radio Big Band


ロンドンを拠点に活躍するピアノトリオとドイツの名門ビックバンドとの共作。Phronesisの持つタイトなサウンドと自由に伸び縮みするタイムはそのままに、木管楽器を多用したアレンジでその表現の奥行きを増している。一糸乱れぬアンサンブルと息もつかせぬ展開に最後まで全力疾走で駆け抜けるかのような一枚。(福田)