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The Dozens 01: 現代ジャズを彩る女性ヴォーカル作品12選

今、ジャズの世界ではグレッチェン・パーラトを中心に、女性ヴォーカリストが広く注目を集めている。ここ1、2年を見ただけでも、カミラ・メサ(チリ)、ジョアンナ・ウォルフィッシュ(イギリス)、エリーナ・ドゥニ(アルバニア)、サラ・セルパ(ポルトガル)などが、自らの音楽的ルーツとモダンジャズ/21世紀のジャズを融合させた楽曲を書き、個性的かつ洗練された歌声を披露している。

かつて”ジャズ・ヴォーカル”という分野は、ノーマ・ウィンストンやカサンドラ・ウィルソンをわずかな例外として、管楽器やピアノなどインストゥルメンタル(器楽)中心のモダンジャズ・シーンとは異なる歴史を辿ってきた。しかしこの10~15年ほどで状況は一変した。レベッカ・マーティンやルシアーナ・ソウザなどの幅広い活動でジャズ・ヴォーカルとジャズ・インストゥルメンタルは急速に接近し、今やバンドのアンサンブルではギターやサックスと同等の地位を築いているといっても過言ではない(その最たる例がマリア・シュナイダー『Concert in the Garden』である)。

そこで今回は現代ジャズの一翼を担うこのシーンを見渡すために、若手・中堅世代(1975-89年生まれ)の女性ヴォーカリストを12人選び代表作をレビューしてみた。人選は①レパートリーがオリジナル曲中心であること、②歌詞のないヴォカリーズも優れていること、③NYやベルリンなど特定の都市のジャズシーンに深く根ざしていることを重視した(①から彼女たちを”ジャズ・シンガー・ソングライター”と呼ぶことも可能だろう)。選んだアルバムを眺めてみると、今のジャズは”ヴォーカリストとインストゥルメンタル奏者がお互いを高め合う時代”なのだと実感させられる。

序文、選盤、略歴: 北澤(Twitter / Facebook
解説(50音順): 北澤、佐藤 悠(Twitter)、吉本秀純(Twitter / Facebook

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グレッチェン・パーラト『The Lost and Found』
Obliq Sound (2011)

Gretchen Parlato (vo), Taylor Eigisti (p, keys), Derrick Hodge (b), Kendrick Scott (ds)
with: Dayna Stephens (sax) , Alan Hampton (vo, g) , Robert Glasper (rhodes)

【解説】
現代ジャズを代表する女性シンガーがロバート・グラスパーをプロデューサーに迎えた作品。R&Bの空気感を備えた生演奏に乗せて、優しい肌触りで、繊細な息の流れが見える管楽器のような歌声を聴かせてくれる。流れるようなスキャットや、楽器の音に声を重ねた時の響き、歌をループさせてバックの演奏を強調する場面も魅力的。時間を伸縮させる彼女の歌のリズム感覚は特別だ。(佐藤)
【略歴】
アメリカ、カリフォルニア州出身。幼少の頃よりジャズやブラジル音楽に触れて育つ。高校卒業後はセロニアス・モンク協会でテレンス・ブランチャードらに師事。自身の活動に加え、シャイ・マエストロやリオーネル・ルエケなど様々なミュージシャンの作品に参加。その歌唱スタイルは現代の多くのジャズシンガーにとって指標になっている。



ベッカ・スティーヴンス『Regina』

GroundUP Music (2017)

Becca Stevens (vo, g), Troy Miller (ds, keys), Michael League (vo, g), Liam Robinson (p, keys), Oli Rockberger (p), Chris Tordini (b), Jordan Perlson (ds), Attacca Quartet (String quartet)
with: Jacob Collier (vo, keys), Laura Mvula, David Crosby, Alan Hampton, Jo Lawry (vo)

【解説】
若手シンガーの中でも特に注目を集めるベッカが、歴史や文学に登場する女性にインスパイアされて制作したアルバム。これまでのライブパフォーマンスを前提とした作品とは違い、ここではスタジオ録音ならではの表現を深く追求している。多重録音によって幾重にも重ねられた鮮やかな歌声はまるで管弦楽曲のようであり、深みと広がりが感じられる音響は教会音楽を彷彿とさせる。(北澤)

Cross Review 02: ベッカ・スティーヴンス『Regina』(by 高橋健太郎、村井康司)

【略歴】
アメリカ、ノース・カロライナ州出身。ジャズ、クラシック、ブルーグラス、ジョニ・ミッチェルなどから影響を受けた音楽性が特徴。それ以外にもロックや電子音楽などのリズム/テクスチャーを使いこなす。ジャズミュージシャンの作品に加えて、デヴィッド・クロスビー、スナーキー・パピーの作品にも参加している。



ティレリー『Tillery』

Self-Released (2016)

Becca Stevens (vo), Rebecca Martin (vo, g), Gretchen Parlato (vo)
with: Pete Rende (keys), Larry Grenadier (b), Mark Guiliana (ds)

【解説】
凛としたベッカ、艶のあるパーラト、憂いを帯びたマーティンの声が織りなす、ビーチボーイズやサイモン&ガーファンクルを彷彿とさせる芳醇なコーラス・ワークが素晴らしい。ポリフォニーや複合リズム、ハーモニーの無駄のない重ね方は、単にジャズSSWシーンのタレント3人を集めただけでは不可能。サウンドは静寂にして雄弁。まさにレス・イズ・モアを体現したアルバム。(北澤)
【略歴】
2010年にメンバー3人が昼食会で集まり、その時に行ったセッションがきっかけで結成したヴォーカル・グループ。ライブだけでなく各地でワークショップも開いている。最年長のレベッカ・マーティンは、カート・ローゼンウィンケルやブライアン・ブレイドと同時代的な活動をし、後継に大きな影響を与えた存在。


カミラ・メサ『Traces』
Sunnyside Records (2016)

Camila Meza (vo, g), Shai Maestro (p, keys), Matt Penman (b), Kendrick Scott (ds), Bashiri Johnson (per)
with: Jody Redhage (cello), Sachal Vasandani (vo)

【解説】
ファビアン・アルマザンの作品での歌声で印象を残したシンガー/ギタリストのサニーサイド第一弾。躍動感のある節回しと飛翔するような伸びやかな歌声に雄大な自然のイメージが浮かんでくる。物語性の強いソングライティングとアレンジによって歌の世界に引き込まれ、ギターソロとスキャットの並走に何度でも夢中にさせられる。シンプルな弾き語りの歌声も魅力だ。(佐藤)
【略歴】
現在NYで活動するチリ、サンティアゴ生まれのシンガー。10代からプロミュージシャンとして活動し、2007年に『Skylark』でデビュー。その後アメリカのニュースクールに進学し、様々なギタリスト/作曲家に師事する。歌声だけでなく、ビクトル・ハラなど南米のSSWに影響を受けた楽曲、伴奏楽器を超えた現代的なギター演奏も特徴。


サラ・エリザベス・チャールズ『Inner Dialogue』
Truth Revolution Records (2015)

Sarah Elizabeth Charles (vo), Jesse Elder (p, keys), Burniss Earl Travis II (b), John Davis (ds)
with: Christian Scott (tp), Camila Meza (g), Jesse Fischer (glockenspiel)

【解説】
クリスチャン・スコットが演奏とプロデュースで参加した新鋭女性ヴォーカリストの作品。透明で神秘的な歌声で歌われるジャズ、ソウル、ラテン、ハイチの伝統曲など多様な楽曲には実験的なアレンジが盛り込まれ、幻想的な多重録音コーラスや、演奏の背後にシンセのように広がるヴォイスも含めて、彼女の世界観がサウンド全体で表現されている。(佐藤)
【略歴】
ハイチ出身の父親を持つアメリカ、マサチューセッツ生まれのシンガー。NYのニュースクール卒業後、2012年に『Red』でデビュー。トランペッターのクリスチャン・スコットは「もし自分が女性シンガーなら、彼女のようなサウンドを作る」と評価する。『Inner Dialogue』に次ぐ新アルバムを2017年に発表予定。



ジョー・ロウリー『Taking Pictures』
ABC Music (2015)

Jo Lawry (vo, g, p), Will Vinson (as, p, key), Alan Hampton (vo, g), Matt Aronoff (b), Dan Rieser (ds), Jesse Lewis (g)
with: Sting (vo), Brian Charette (org), John Ellis (b-cl), Theo Bleckmann (vo), Jamey Haddad (per) Other

【解説】
1曲目の夏草の匂いが漂ってきそうな弦楽器/ブラス楽器の響きに、彼女の柔らかな歌声が乗った時点で成功が約束されたアルバム。フォーク・ロック系の楽曲はどれも自己主張しすぎない巧みなアレンジがほどこされ、歌もさることながらアコーディオンやバスクラリネットといった追加楽器の音色に耳を奪われる。歴史を動かすようなセンセーショナルさが無い分、自分だけが知っていたいと感じる作品だ。(北澤)
【略歴】
現在NYを中心に活動しているオーストラリア出身のシンガー。ニューイングランド音楽院でダニーロ・ペレスに作曲を師事し、卒業後はスティングに起用されて歌手としての研鑽を積む。フレッド・ハーシュやクリストファー・ズアーのアンサンブル作品、ベッカ・スティーヴンス『Regina』などに参加。



ジェン・シュー『Sounds and Cries of the World』
Pi Recordings (2015)

Jen Shyu (vo, p, etc), Ambrose Akinmusire (tp), Thomas Morgan (b), Dan Weiss (ds), Mat Maneri (violin)

【解説】
日本も含む東南~東アジア圏の音楽を現代ジャズに掛け合わせた試みはまだまだ少ないが、スティーヴ・コールマンの近作でも存在感を示すこの才媛のリーダー作はその稀有な成功例。東ティモール、インドネシア、台湾、韓国などのトラッドや詩をベースとした非西欧的な歌と民族楽器に、即興性の高いプレイでその中からジャズ的な旋律を導き出して発展させるアキンムシーレらの演奏も秀逸。(吉本)
【略歴】
アメリカ、イリノイ州出身のアジア系シンガー。主にジャズとフリー・インプロヴィゼーションの領域で活動しているが、それ以外にも詩や舞踏、オペラなど幅広いバックボーンを持つ。アジア圏を中心とした民族音楽とMベース周辺の前衛的なジャズを調和させたスタイルが特徴的。



サラ・セルパ『All The Dreams』
Sunnyside Records (2016)

 Sara Serpa (vo, p, rhodes), André Matos (g, b, per)
with: Pete Rende (synthesizer), Billy Mintz (ds, per)

【解説】
サラ・セルパとアンドレ・マトスのデュオユニットによる2枚目のアルバム。追加ミュージシャンの演奏は最低限にとどめ、セルパの郷愁を誘う歌声とマトスの陰影感のあるギターに大きく焦点が当てられている。2人のラインは随所でオーバーダブが加えられ、最低限の情報量で音響的・空間的な快楽を表現。歌や詩という具象的な素材で描かれる淡くはかない抽象美。(北澤)
【略歴】
ポルトガル出身、現在NYで活動するヴォーカリスト。ニューイングランド音楽院でラン・ブレイクに師事し、その後グレッグ・オズビーのバンドでキャリアを積んだこともあり、時に調性感の薄い先鋭的なラインも用いる。垣谷明日香ジャズ・オーケストラ、ダニーロ・ペレスの作品にも登場。



ジョアンナ・ウォルフィッシュ『Gardens In My Mind』

Sunnyside Records (2016)

 Joanna Wallfisch (vo, p, ukulele), Dan Tepfer (p, melodica)
The Sacconi Quartet: Ben Hancox, Hannah Dawson, Robin Ashwell (violin), Pierre Doumenge (cello)

【解説】
冒頭の情感豊かな3曲から中盤の真夜中の街をさまようような孤独な楽曲まで、この作品の表現のレンジは実に幅広い。その喜びから哀しみまで包み隠さず表現するスタンスは、弾き語り時代のジョニ・ミッチェルのたたずまいを思い出させる。④、⑨~⑪以外の弦楽アレンジは彼女が担当しており、4つのラインを時にポリフォニックに、時に表情豊かに操っている。(北澤)
【略歴】
現在NYで活動しているイギリス、ロンドン出身のシンガー。2012年のデビュー作は正統派ジャズ・ヴォーカル作品だったが、その後Sunnysideで発表した2枚は彼女のルーツであるクラシック(親はともにクラシック演奏家)、シンガー・ソングライター系の音楽が色濃く反映されている。



イシス・ヒラルド『Padre』

Self-Released (2015)

Isis Giraldo (vo, p),Simon Millerd (tp), Mike Bjella (sax, cl), Jane Chan (cello), Ben Dwyer (b), Kai Basanta (ds)
Chorus: Ryan Brower, Felicity Williams, Thom Gill, Ghislain Aucoin, Robin Dann (vo)

【解説】
コロンビアのフォルクローレらしい旋律が随所に溶け込んだメロディに、ポール・ブレイからの影響を強く感じさせる鍵盤もまた独創的なカナダ在住の異才によるカテゴライズ不能な秀作。クラシカルな弦楽器、現代ジャズ的なホーンとリズム隊、教会音楽や聖歌隊に通じる幻想的な女性コーラスなどがハイブリッドに織りなす音世界は、カーラ・ブレイがカンタベリー一派と組んだ諸作を連想させる。(吉本)
【略歴】
コロンビア出身、カナダで育ち現在同国のモントリオールで活動しているシンガー/ピアニスト。主催するバンド”ポエトリー・プロジェクト”は、彼女の父親の詩にインスパイアされた楽曲を演奏している。その作曲法はストラヴィンスキー、セロニアス・モンク、エリカ・バドゥなどに影響を受けたという。



エリーナ・ドゥニ『Dallëndyshe』
ECM Records (2015)

Elina Duni (vo), Colin Vallon (p), Patrice Moret (b), Norbert Pfammatter (ds)

【解説】
オスマン・トルコ支配下だった時期の名残りとギリシャや旧ユーゴなどの周辺国の音楽に通じる要素が独自にブレンドされたアルバニア出身の女性歌手による、ECMからの2作目。プリペアド奏法のピアノなどを多用した前作を経て、愛と亡命に関する歌を中心に取り上げた本作では、流麗さと疾走感をアップ。先の来日公演では東欧の打楽器のニュアンスも応用したドラムの巧さが特に際立っていた。(吉本)
【略歴】
アルバニア出身、現在は幼少期に亡命したスイスで演奏しているシンガー。デビュー時から共に活動するピアニスト、コリン・ヴァロンの提案でジャズにバルカン音楽の要素を加え、オリジナリティの高いサウンドを確立している。レビュー作品のカルテットで現在まで4作アルバムをリリースしている。

 



ナタリア・マテオ『De Profundis』
ACT Music (2017)

Natalia Mateo (vo), Sebastian Gille (sax), Simon Grote (p), Dany Ahmad (g), Christopher Bolte (e-b), Felix Barth (b), Fabian Ristau (ds)

【解説】
パーラト以降のヴォーカル・スタイルを受け継ぐ若手シンガーがベルリンにもいる。退廃的で寂寥感につつまれた音世界をしなやかで優しく、時折節回しにビョークを感じさせる歌声が淡く照らす。ポーランド/ロシア音楽のカバーと母国語詞のオリジナルが醸し出すスラヴ音楽的なメランコリアもこの作品の特色で、空間性を活かした音作りによって現代ジャズ的なサウンドと上手く調和している。(北澤)
【略歴】
現在ドイツ、ベルリンで活動するポーランド出身のシンガー。2013年にデビューし、最新作の『De Profundis』で3作を数える。解説で触れた女性シンガー2人以外にも、ポピュラー音楽ではジョニ・ミッチェルやトム・ウェイツ、ジャズではセオ・ブレックマンなどを慕っている。

※動画は前作『The Windmills Of Your Mind』(2015)

 


今回はレビューができなかったが、上のヴォーカリストの他にお薦めしたいジャズ系シンガーは以下の6名である。
イェウォン・シン / Yeahwon Shin
グウィネス・ハーバート / Gwyneth Herbert
サーナ・アレクサ / Thana Alexa
エスペランサ・スポルディング / Esperanza Spalding
ローレン・デスバーグ / Lauren Desberg
マリア・ネッカム / Maria Neckam

またジャズシーンで活動しているわけではないが、ジャズの要素を含んだ若手シンガーとして次の6人も見逃せない。
コールド・スペックス / Cold Specks
ジェネヴィエーヴ・アルタディ / Genevieve Artadi
スサンナ・ヴァルムルー / Susanna Wallumrød
タチアナ・パーハ / Tatiana Parra
ネイ・パーム / Nai Palm
ローラ・ムヴューラ / Laura Mvula