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Cross Review 02: Becca Stevens – Regina

現代のジャズシーンを代表するシンガー・ソングライター、ベッカ・スティーヴンスが最新作『Regina』をリリースした。今までの”ベッカ・スティーヴンス・バンド”作品から一転、初の単独名義となる今作はスタジオでのポストプロダクションの比重がぐっと増し、その音楽性は前作『Perfect Animal』(2014)の続編とは言い切れないほど大きな変貌を遂げた。

そこでUntitled Medleyは音楽評論家の高橋健太郎氏と村井康司氏に『Regina』のレビューを依頼し、ベッカが本作で以前の作品からどのように変化/進化したのかを検証してもらった。高橋氏はロックやワールドミュージック関係、村井氏はジャズ関係の執筆が多く、それぞれ活動領域が微妙に異なるものの、フォークやアメリカーナ周辺の音楽の解説が必要になった時に、この二人よりも信頼のおける評論家はいないだろう。それだけに、クロスレビューもスリリングな内容になっている(レビュワーの並びは五十音順です)。

参考: 現代ジャズ攻略Wiki – ベッカ・スティーヴンス/Becca Stevens

アルバムデータ

Becca Stevens – Regina
GroundUP Music (2017)
All compositions by Becca Stevens (except 13 by Stevie Wonder)

Becca Stevens (vo, g, charango, etc)
Troy Miller (ds, glockenspiel, wurlitzer, etc)
Michael League (vo, g, etc )
Liam Robinson (p, accord, wurlitzer, etc)
Oli Rockberger (p)
Chris Tordini (b)
Jordan Perlson (ds, perc)
Attacca Quartet (String quartet)

Laura Mvula (vo) M-1, 10
Jacob Collier (vo, p, mandolin, etc) M-3, 13
David Crosby (vo) M-12
Alan Hampton (vo) M-6
Jo Lawry (vo) M-5, 7, 9

クリックすると楽曲ごとの情報が表示されます
1. Venus (featuring Laura Mvula)
Becca Stevens – Vocals, Guitars
Laura Mvula – Vocals
Troy Miller – Drums, Glockenspiel, Kalimba, etc…
Michael League – Vocals, MiniMoog Bass
Chris Tordini – Bass
Oli Rockberger – Piano

2. Lean On
Becca Stevens – Vocals, Guitars, Handclaps
Michael League – Handclaps, Vocals, Guitar
Jordan Perlson – Drums/Percussion
Chris Tordini – Bass
Troy Miller – Prophet 600
Attacca Quartet

3. Both Still Here (featuring Jacob Collier)
Becca Stevens – Vocals, Charango, Body Percussion
Jacob Collier – Vocals, Piano, Claps & Snaps, etc…
Jordan Perlson – Drums
Chris Tordini – Bass
Nathan Schram – Viola
Hamilton Berry – Cello

4. 45 Bucks
Becca Stevens – Vocals, Guitar, Charango
Troy Miller – Drums, Paraphonic Bass, Wurlitzer
Chris Tordini – Bass

5. Queen Mab
Becca Stevens – Vocals, Guitars, Charango
Jo Lawry – Vocals
Jordan Perlson – Drums/Percussion
Chris Tordini – Bass
Liam Robinson – Roland Gaia, Wurlitzer, Prophet 600
Nathan Schram – Viola
Hamilton Berry – Cello

6. We Knew Love (featuring Alan Hampton)
Becca Stevens – Vocals, Guitars
Alan Hampton – Vocals
Jordan Perlson – Drums
Chris Tordini – Electric Bass
Liam Robinson – Piano, Accordion, Wurlitzer, etc…
Nathan Schram – Viola
Hamilton Berry – Cello

7. Mercury
Becca Stevens – Vocals, Guitars, Handclaps, etc…
Jo Lawry – Vocals
Troy Miller – Roland Paraphonic
Jordan Perlson – Drums
Chris Tordini – Bass
Liam Robinson – Wurlitzer, Moog Synth

8. Regina
Becca Stevens – Vocals, Ukulele, Charango, etc…
Michael League – Guitar, Daf
Troy Miller – Claps, Stomps
Attacca Quartet

9. Harbour Hawk
Becca Stevens – Vocals, Guitars, Charango
Jo Lawry – Vocals
Jordan Perlson – Drums, Shakers, Boat Bell
Chris Tordini – Bass, Vocals
Liam Robinson – Piano, Wurlitzer, Roland Gaia

10. Well Loved (featuring Laura Mvula)
Becca Stevens – Vocals, Ukulele, Charango, etc…
Laura Mvula – Vocals
Oli Rockberger – Piano
Troy Miller – Drums, Roland Paraphonic, Synth Bass, etc…
Chris Tordini – Bass

11. Ophelia
Becca Stevens – Vocals, Guitars, Claps/Stomps
Troy Miller – Handclaps/Stomps
Jordan Perlson – Drums
Chris Tordini – Bass
Attacca Quartet

12. The Muse (featuring David Crosby)
Becca Stevens – Vocals, Guitars
David Crosby – Vocals
Troy Miller – Glockenspiel
Jordan Perlson – Drums
Chris Tordini – Bass
Liam Robinson – Accordion, Piano, Wurlitzer, etc…
Nathan Schram – Viola
Hamilton Berry – Cello

13. As (featuring Jacob Collier)
Becca Stevens – Vocals, Charango
Jacob Collier – Vocals, Guitar
Children’s Choir


高橋 健太郎「ベッカが希求しているのは、一言でいえば『強さ』」

2011年の『Weightless』からのファンは、受け取ってからその重さにたじろいだ。こんな新作を受け取る準備は出来ていなかったのだ。ベッカ・スティーヴンスといえば、ブルックリン・シーンのジャズとフォークを繋ぐ存在。男性ならアラン・ハンプトン、女性ならベッカみたいなイメージだった。周囲の気心知れたミュージシャン達とナチュラルでオーガニック、繊細で透明な音楽を紡ぎ出す。ずっと、そういう活動を続けていくのだろうと勝手に考えていたのだった。

だが、彼女は変わろうとしていた。ソロ名義となったこのアルバムでベッカが希求しているのは、一言でいえば「強さ」だ。エレクトリック・ギターを多く弾くようになったことも、ローラ・マブーラを手掛けた英国人プロデューサー、トロイ・ミラーの精密で重厚なプロダクションを必要としたのも、理由はその一点に結びつくだろう。近年の女性アーティストの作品でいえば、ローラの諸作やエスペランサ・スポルディングの『Emily’s D+Evolution』、コリーヌ・ベイリー・レイの『The Heart Speaks In Whispers』などにも通じるソリッドな感触が、『Regina』と題されたこのベッカの新作にはある。

ただし、ローラやエスペランサやコリーヌのアルバムがフューチャリスティックなイメージを漂わせているのに対して、ベッカは中世にも遡る史実と触れあう中から強い女性像を表現した音楽を掴みとっている。それは多分にコンセプチュアルで、演劇的なアイデアを凝らしたものだが、幾つかの曲では彼女自身の出自とも重なりあう。フレディ・マーキュリーの言葉をモチーフとした激しいロック・チューンの”Mercury”に続いて、彼女が育ったアパラチア山麓の古い音楽を思わすようなタイトル曲が始まる瞬間が、アルバムの最もスリリングなハイライトだろう。

正直にいって、強さや重さや妖しさをベッカの音楽に求める気持ちを持っていなかったから、まだ戸惑いながら聴いている。が、思い返してみれば、『Court & Spark』以後のジョニ・ミッチェルの音楽だって、そうやって追いかけたのだった。ベッカはまだまだ挑み続け、変わり続けるだろう。たぶん、2、3作先のアルバムまで追いかけた時に、この時の彼女が分かる。そういう作品ではないかと思う。

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村井 康司「多彩にして多様な『声の群像劇』」

初めてこのCDを聴いたとき、いちばん印象に残ったのは、複数の“声”がサウンドステージのそこここにある様子だった。

それを「コーラス」と呼んでしまうのにはいささか抵抗がある。単声のソロ・ヴォーカルとバッキング・コーラス、あるいはリード・メロディの上下に配置されるハーモニー・パートを「コーラス」と呼ぶのは分かるのだが、ここでベッカたちが選択した方法は、それらを含みつつ、ユニゾンで歌ったり、輪唱のように時間差で重ねたり、いっけんリードの声とは関係ないメロディを絡めたり、という実に多彩にして多様な「声の群像劇」なのだ。しかも、オーヴァーダビングされたベッカ本人の声の質も、その局面によって微妙に変化させていて、バランスやエフェクトも実に繊細なさじ加減で調整されている。

これに似たやり方ってなんかあったよなあ、としばらく考えてひっぱり出してきたCDは、マーヴィン・ゲイの『What’s Going On』。ソウル・ミュージックの歴史を変えたこの名作で、マーヴィンは自身の声をさまざまな方法で重ねて、やはり「声の群像」を提示している。ベッカとプロデュース・チーム(トロイ・ミラー、マイケル・リーグ、ジェイコブ・コリアー)が直接”What’s Going On”を意識したかどうかは分からないが、「複数の声がさざめき泡立つ音楽」の歴史が、こうして継承されていくさまは感動的ですらある。

実際の人の声に限らず、『Regina』は、実に多彩な「声=音」たちがさざめき泡立つアルバムだ。ベッカのトレード・マークであるチャランゴをはじめとするアコースティックな撥弦楽器群、ストリングスやシンセサイザーといった持続音系のサウンド、クリスピーなスネア・ドラム、ヘヴィに沈み込むボトムのリズム、リヴァーブによって敢えて輪郭を曖昧にしたピアノ(それはまるでブルーブラックのインクを水に落としたような音色だ)、形容しがたい不思議なエレクトロニック音などが、音場の左右上下前後にきらめき、現れては消えてゆく。そして中心に屹立するベッカのメイン・ヴォーカルは、多彩な音たちのリフレクションを浴びても存在感を減ずることはなく、むしろ今までのどのアルバムよりくっきりとセンターの位置を占めているのだった。

ところで、「アメリカーナ」という言葉で語られることが多いベッカだが、『Regina』を聴いて、僕はなぜかイギリスの音楽家たちのことを想起した。これはイギリス人のトロイ・ミラーが音作りの中心人物だから、なのだろうか。リヴァーブの効いた奥行きのあるサウンドは、80年代後半のイギリス人ミュージシャンの諸作を思わせる。部屋のあちこちを探索してかき集めたCDはとこんな感じだ。

エンヤの『Watermark』、スティング『Nothing Like The Sun』、ピーター・ゲイブリエル『So』、ベッカが前作でカヴァーした”Higher Love”から始まるスティーヴ・ウィンウッドの『Back In The High Life』、ケイト・ブッシュの『The Whole Story』……。

どれも30年ほど前に毎日のように聴いていて、ある時期からなんとなく避けていたアルバムたちだ。久しぶりにまとめて聴いて自分でも驚いたのは、音場全体にかけられた深いリヴァーブやゲート・リヴァーブを効かせたスネアといったあの頃の音作りが、なぜか今は新鮮に感じられること。ベッカのチームがクリエイトしたサウンドはそのコピーではもちろんなく、メインのヴォーカルはぐっと前にせり出しているのだが、一時忌避されていた80年代的な録音のおいしいところを再発見して巧みに採り込む姿勢が興味深い。

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