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Cross Review 07: Ambrose Akinmusire – A Rift in Decorum

Ambrose Akinmusire – A Rift In Decorum: Live At The Village Vanguard
Blue Note (2017)

Disc 1
① Maurice & Michael (Sorry I Didn’t Say Hello)
② Response
③ Moment In Between the Rest (To Curve an Ache)
④ Brooklyn (ODB)
⑤ A Song To Exhale (Diver Song)
⑥ Purple (Intermezzo)
⑦ Trumpet Sketch (Milky Pete)

Disc 2
① Taymoor’s World
② First Page (Shabnam’s Poem)
③ H.A.M.S (In the Spirit of Honesty)
④ Piano Sketch (Sam Intro)
⑤ Piano Sketch (Beyond Enclosure)
⑥ Condor (Harish Intro)
⑦ Condor
⑧ Withered
⑨ Umteyo

Ambrose Akinmusire – Trumpet
Sam Harris – Piano, Keyboad
Harish Raghavan – Bass
Justin Brown – Drums


北澤「本作のエッセンスは一枚目に集約されていると思う」
アンブローズ・アキンムシーレの念願の初ライヴ盤は力のこもった内容だ。だが、アキンムシーレには2014年に公開されたライヴ動画と同じ路線を期待していただけに、方向性の異なる今作は3,4回聴いても若干違和感が残っている。でも、彼の過去作に既存の作品やジャンル名と並べて聴けるものは一つも無かったわけで、この作品の真価も数年後、数作後にはっきりしてくるのかもしれない。

◆ルクセンブルクのジャズ・フェスティバル”Like a Jazz Machine”での演奏(演奏開始は00:20から)。かつては50分ほどのフル動画がUPされていた。

ひとまず、作品レビューに移る前に、アキンムシーレのこれまでの演奏/作品の傾向を大雑把にまとめてみた。

演奏
・シンガーやチェロにインスパイアされたスモーキーで空間的な音色。
・ハーフバルブ、ノンピッチサウンド、ブレスサウンドなど質感的なアプローチの多用。
・「小節線を無視したソロ交代」、「ソロ中に別のミュージシャンの即興をぶつける割り込み的展開」、「同時並走するソロ」など、ソロセクションでの実験。

作編曲
・ゴスペルを想起させる力強いメロディ/ビートの楽曲。
・ヴィブラフォン、ストリングス、ヴォイス、ギターなどうっすらと音を重ねる(音をレイヤリングさせる)ことができる楽器の多用。

アルバム作り
・ポストプロダクションを多用した物語的/映画音楽的な作品作り。

今回はライヴ録音のため、従来のアルバム作りを封印し、その内容はかつてないほどインプロヴィゼーション主体になった。まずはディスク1の内容を見ていきたい。今作は気合の入った演奏の①、⑦(前作収録の”As We Fight”と同一曲)はもちろん、アキンムシーレ自身がギターやヴォイスに通じるレイヤー的な表現をしている②、③が大きく印象に残った。

②のサム・ハリスのソロ裏と③のテーマ終わりでアキンムシーレが吹くハイノートは、ギターのフィードバック音に通じる音響的な効果を生んでいる。また③のアキンムシーレのソロパートは、メロディよりもトランペットから引き出せる質感そのものを表現するような演奏で、これは前作に参加した声楽家セオ・ブレックマンの特殊奏法を思い起こさせる。こうしたレイヤー的/質感的なアプローチは、今までテナーサックスやギターが得意としてきた表現だが、アキンムシーレがやると聴き手の心をざわつかせる不思議な雰囲気が生まれる。こうした表現に加えて、②の前半と④のメンバー全員の並列的な即興は、今までやってきたソロセクションでの実験(=即興的なアンサンブル)の延長線上に位置しているのだろう。

一方、アキンムシーレやサム・ハリスたちが即興に没頭する①、⑦も凄い。①ではハリスがポール・ブレイに通じる官能的で凶悪な響きの音の固まりを、解体と構築を繰り返しながら展開していく。ハーモニー的なセンスにおいて、彼ほど抜きん出たピアニストはあまりいないだろう。⑦ではハリスのほとんどフリージャズのようなソロと、アキンムシーレ&ジャスティン・ブラウンの対話的なデュオが繰り広げられる。ハリスのソロ後、30秒間音を出さず、観客が意図をはかりかねた所で何事もなかったかのように演奏を開始するアキンムシーレがクールだ。

意図してやったかは不明だが、ストレートな内容の①、⑦がディスク1の冒頭と終わり、レイヤリング/即興的なアンサンブルの②~④がディスク1の半ばに配置されたことで、それぞれのコンセプトが引き立っている。

一方、ディスク2の①、③はモチーフを変形/発展させていくコンテンポラリー・ジャズ的にも、音響や質感的な表現に焦点を当てるアヴァンギャルド・ジャズ的にも中途半端で、不完全燃焼感が否めなかった。 ④以降はイントロも一曲としてカウントすれば二曲連続で特定のミュージシャンがフィーチャーされているが、これはいくら名役者と言えども、アルバムとしては一本調子に聴こえてしまった。というわけで本作のエッセンスは一枚目にほぼ集約されていると思うのだが、いかがだろうか。
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よろすず「ジャズに新しくもたらされた何かをすぐに聴きとることはできないかもしれないが」
前作はソロパートの充実もさることながら作曲面での個性が確立され、それがシンガーを迎えたりといった試みともしっかりと噛み合い、アルバム全体から音楽家としてのパーソナルな作家性を感じとることができるような傑作だったアンブロース・アキンムシーレ。

今回はライブ盤ということでインプロヴァイザーとしての一面を大きく打ち出してくるのか?とも思ったのですが、蓋を開けてみるとそこまで振り切った内容というわけではなく、より長時間のソロが取りやすいように設計されたようにも思える楽曲のうえで、曲の持つ雰囲気を損なわず各々が音楽全体のバランスや流れを見通したうえでフレーズを絡めていくような内容。

場面によってはこれまでの作品ではあまり聴けなかったような過剰な表現(一枚目⑦での7分近くに及ぶトランペットとドラムのデュオパートで聴けるアキンムシーレのフリーブローイング的な演奏、二枚目⑨でのジャスティン・ブラウンのドラム乱打など)も顔を出しますが、全体としては端正さを保った時間が多いように思います。この辺りの成熟さえ感じさせるような地に足の着いた表現は今作のメンバーが全員前作にも参加している、音楽的なビジョンをしっかり共有できている面々だから可能なものなのでしょう。

特にテンポの遅いバラード的な演奏においてはそのような印象がより際立っていて、一枚目③、⑤での特殊奏法なども交えながら一音一音踏みしめるように音を紡ぐアキンムシーレの演奏はアルバム全体のハイライトと言えるでしょう。

リーダーであるアキンムシーレがそのような端正さにおいて自らの色を最も魅力的に打ち出しているのに対し、時にそのフレームを崩しにかかるような過激さや危険さを持ち込んだ演奏をしているのがピアノのサム・ハリス。特に④での扇情的な演奏などは終始耳を惹かれるものがあります。柔らかな曲調が多い中でその雰囲気をキープしたり、時には切迫感のある演奏を組み込む役割を担っているように聴こえますが、そういった色付けを行う際の低音部の音響的なアクセントとしての用い方、そしてソロを弾く際に何かを閃いたかのようにフレージングのスピードがグッと上がる瞬間のスリリングさなどにはポール・ブレイの面影を感じとることもできるかもしれません。

ひとつ多少の不満があるのが録音で、前述した過剰な表現が顔を出す場面(特に一枚目⑦でのトランペットとドラムのデュオ部分)ではその演奏の内容の割には扁平な印象になってしまっていて少々勿体なさを感じますし、他にもトランペットがしゃくり上げるような吹奏を行う場面などは現場で聴けば伝わってくるであろう吹きこまれる息の速さの急激な変化などを感じとりにくいようにも思います。演奏が行われている空間の雰囲気を多く録りたかったことは伝わってくるのですが、もう少しだけマイクに音が乗ったような録音でもよかったかなと。

前作がジャズの編成や構成に様々なもの(弦、声、エフェクトなど)を持ち込むことに焦点が当てられていたとするならば、本作をそれによって得られた感覚を踏まえたうえでどこまでもジャズらしい編成、空間で何ができるかという試みと捉えられるかもしれません。ただ、それは前作の音風景を四人で力ずくで再現するようなかたちではなく、この編成ではできないこととして受け止めたうえで、それを隙間として生かすようなかたちをとっているように思われます。ゆえに本作はジャズに新しくもたらされた何かをすぐに聴きとることはできないかもしれませんが、その音楽の自然な隙間によって聴衆を引き込みその魅力をじっくり染み渡らせてくれるような、ライブ盤としては少し珍しい価値の在り方を感じさせてくれる作品です。
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【アンブローズ・アキンムシーレ 略歴】
1982年カリフォルニア州生まれ。マンハッタン音楽院、セロニアス・モンク・インスティチュート卒業後、2008年に『Prelude to Cora』でデビュー(現在まで四作をリリース)。ブッカー・リトルやSSWのジョニ・ミッチェルに影響を受けたニュアンス豊かなトランペット・スタイルで、サイドマンとしても様々なミュージシャンの作品に参加している。自作の物語や脚本を音楽化させるという、サウンドトラックや映画音楽に通じる作曲法も特徴的。