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Cross Review 06: Christian Scott – Diaspora

2015年の『Stretch Music』リリース以降、才能ひしめく現代ジャズシーンにおいて、ソングライター/トラックメイカーとして頭一つ抜けた感のあるクリスチャン・スコット。今年2017年は三部作のリリースを宣言し、3月にはその第一弾として『Ruler Rebel』を発表した。この作品はトラップ/アフリカ音楽の要素を織り交ぜた内容で、ジャズだけでなくブラックミュージック・ファンからも高く評価された(クロスレビューはこちら)。それから三ヶ月を経てリリースされた第二弾『Diaspora』は前作と何が違っているのか?前作のクロスレビューに続いて佐藤 悠氏と高橋アフィ氏に読み解いてもらった。

※レビューの並びは50音順です。


アルバムデータ
Christian Scott – Diaspora
Ropeadope Records (2017)

① Diaspora (feat. Elena Pinderhughes)
② Idk (feat. Braxton Cook)
③ Our Lady of New Orleans (Herreast Harrison)
④ Bae (Interlude) [feat. Lawrence Fields] ⑤ Desire and the Burning Girl
⑥ Uncrown Her
⑦ Lawless (feat. Braxton Cook)
⑧ Completely (feat. Elena Pinderhughes)
⑨ New Jack Bounce (Interlude)
⑩ No Love
⑪ The Walk (feat. Sarah Elizabeth Charles)

Christian Scott – Trumpet, Flugelhorn, Sampling etc…
Elena Pinderhughes – Flute (1, 3, 6 – 8, 11)
Braxton Cook – Alto Saxophone (1, 2, 6, 7, 10, 11)
Cliff Hines – Guitar (1- 3, 6, 8, 10)
Lawrence Fields – Piano, Fender Rhodes (1 – 4, 6 – 8, 10, 11)

Kris Funn – Bass (1, 2, 6 – 8, 10, 11)
Corey Fonville – Drums, Sampling Pad (1 – 4 6, 7, 10, 11)
Joe Dyson Jr. – Pan African Drums, Sampling Pad (1 – 5, 7 – 9, 11)
Weedie Braimah – Percussion (1 & 9)
Chief Shaka Shaka – Percussion (1 & 9)

Sarah Elizabeth Charles – Vocals (11)


佐藤 悠「ループを軸にして眺めると作品の構成が見えてくる」

『Ruler Rebel』に続く三部作の二作目。前作ではドラム・ループとピアノの反復リフがトラップに通じるダークな世界観を形成していたが、今作のビートはトラップ的ではなくなっている。しかしピアノやギターのループは多くの曲に存在し、曲を一箇所に係留している。①のピアノの清廉な響きや、③の終盤で強調されるギターの音色が印象的だ。それはアフリカ音楽のミニマルな構造を想起させ、ブラック・ディアスポラを含意するタイトルとの繋がりに意識を向けさせる。

ループを軸にして眺めると、作品の構成が見えてくる。漂うようなヴォーカルが詩的な色合いを加える⑪では、速さの異なる二つのピアノのループを交互に提示することで、曲自体が加速と減速を繰り返す。レディオヘッドのような不安を感じさせる曲調の⑤では、ピアノのループこそないものの、機械的なビートが一定のパルスを送り続けることで、ループと近い効果を生んでいる。同じくマシン的なビートを用い、アフリカン・パーカッションを加えた⑨もそれと似た印象だ。

最後にループ構造を持たない曲を見ていこう。ループとの対比によって、そこから外れた曲のレイドバックした雰囲気と感情的な表現が強調され、今作のハイライトを形成している。⑥での傷を癒すような優しいピアノソロや、⑩での孤独を感じさせるサックスソロは胸に染みる。そして美しいフルートソロが真っ直ぐ心に届く⑧は世界の繋がりや愛をテーマにしたという今作の中心をなす一曲だ。①でのエコーをかけた幻想的なソロも含め、今作の主役はエレーナ・ピンダーヒューズだということもできる。クリスチャン・スコットの多様な音楽性が表現された充実作だ。
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高橋アフィ「インタープレイの呪縛から解き放たれた」

「ジャズとトラップ混ぜたらいいじゃん」に対しての誠実過ぎる回答であり、ジャズに限らず多くのプレイヤーが持つ「ヒップホップへの欲望」の青写真なのだが、その手腕の素晴らしさゆえ「元々双子であった」事すら思えてしまうので、この「自然に混ざってしまっている」不自然さについて書いていきたい。

近年急速に接近しているジャズとヒップホップ(あるいはポップス)だが、未だに苦闘の歴史である事は間違いないだろう。その最大の壁の1つは「定期的に繰り返すリズム」であり、トラックのループしていく性質とジャズのインタープレイの相性の悪さが目立つことが多かった。

に対し、今作『Diaspora』は圧倒的にヒップホップのトラック的なループの印象が強い。同時期に録音されたといえ『Ruler Rebel』ではポストロック/アフロビートの多層的なアプローチでリズムの伸縮を作り、解釈の自由度があったのだが、今作の多くは、リズムの空白の多さとアクセントの強さが目立つという意味で、ヒップホップ的とも言えるものとなっている。特にニュアンスをあえて無くした電子音の使い方は、トラップ以後のトラックの影響もあるだろう。

だが、それがジャズの旨味を損ねているかというと、今まで両立が難しかったとは思えないほど自然に、双方の良さを損なわないバランスに成り得ていると思う。その理由は当然複数・複合的にあるのだが、特に気になったのは「ループに耐えられる/ループであるべき」演奏/トラックだ。今までの多くの「ヒップホップ風」の演奏は「インタープレイの元ネタ」あるいは「ソロを目立たせるための地味なループ」という印象で終わってしまう、展開することが前提であるようなものが多かった。それに対し今作は、まずトラックやループとしての強度を中心に作られたように聞こえる。そしてトラックとしての強度を支える為に、ジャズ的な演奏/楽曲の複雑さが使われていることが今作の最大の発見だろう。それゆえ、ヒップホップ/トラップともジャズとも言い切りがたい独特なものになりえている。シーケンシャルな電子音と演奏の曖昧な混ざり方(シンバルだけ生であるドラム等)はその切り分けられなさこそ本質ではないだろうか。もはやトランペットどころか音階楽器の無い、リズムトラックな⑨がアルバムとしての質感を損なわないバランスは注目すべきだろう。

勿論トラックだけでは成り立たないのは言わずもがな。クリスチャン・スコットの一層輝きを増したプレイは驚愕であり、バックのループ感を逆手に取ったようなクールかつ熱のこもった演奏は、もはやトラックの上でのラップ・スキルに感動できる我々がいるように、インタープレイ(をしなけばならないこと)の呪縛から解き放たれた/だからこそトラックに対しても演奏に対しても積極的に絡んでいける、ジャズ(とヒップホップ/トラップ)の新たな側面が見えるようだ。
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【クリスチャン・スコット 略歴】
1983年ニューオーリンズ州生まれ。バークリー音楽大学卒業後、2006年に『Rewind That』でメジャーデビュー。その後2012年の『Christian aTunde Adjuah』までは同世代のミュージシャンと共に、オルタナティヴ・ロック、ポストロックなどを取り入れた音楽性を展開。2015年の『Stretch Music』以降は若手を多く起用し、エレクトロニクスと呪術性がせめぎ合うブラックミュージック的な作品をリリースしている。

Cross Review 03: Christian Scott – Ruler Rebel

現代のジャズを代表するトランペッター/ソングライター、クリスチャン・スコットはかつてこう言った。「新しいパレットを作りたいと思っている。ジョン・コルトレーンのカルテットは、それまでのジャズの在り方をひっくり返した。同じように、僕は未来の世代のために違うやり方があるんだということを示したい」(CD Journal 2009年1月号)。

その言葉通り彼は『Stretch Music』(2015年)と先日リリースした『Ruler Rebel』(2017年)で、今までのジャズ界ではほとんど前例がないリズム/サウンド・プロダクションを導入し、「新しいパレット」を我々の前に提示してみせた。それを受けて今回は、現在進行形のジャズを追う佐藤 悠 氏とTAMTAMのドラム/プログラミング担当、高橋アフィ氏に最新作『Ruler Rebel』のレビューを依頼し、近年のクリスチャン・スコットの音楽性と、これからのジャズの形を読み解いてもらうことにした。
※レビューの並びは50音順です。


アルバムデータ

Christian Scott – Ruler Rebel
Ropeadope Records (2017)

01. Ruler Rebel
02. New Orleanian Love Song
03. New Orleanian Love Song II (X. aTunde Adjuah Remix)
04. Phases
05. Rise Again (Allmos Remix)
06. Encryption
07. The Coronation of X. aTunde Adjuah
08. The Reckoning

Christian Scott – Trumpet, Flugelhorn, Sampling Pad, etc
Elena Pinderhughes – Flute (6, 7)
Cliff Hines – Guitar (1, 4, 6-8)
Lawrence Fields – Piano, Fender Rhodes (1-3, 5-8)
Luques Curtis – Bass (4)
Kris Funn – Bass (7, 8)
Joshua Crumbly – Bass (6)
Corey Fonville – Drums, Sampling Pad (1-3, 6-8)
Joe Dyson Jr. – Pan African Drums, Sampling Pad (1-4, 6, 8)
Weedie Braimah – Djembe, Bata, Congas (1-3, 5, 7)
Chief Shaka Shaka – Dununba, Sangban, Kenikeni (1-3, 5, 7)
Sarah Elizabeth Charles – Vocals (4)


佐藤 悠「クリスチャン・スコットの最高到達点」

まずリズムに触れておきたい。前作にも参加したシンセ・パッドを併用するドラマー二人に加え、パーカッショニストを二人起用し、曲によって使い分けている。ベースレスで打楽器奏者四人が叩く①、②、③と、太いベースが鳴る⑦、⑧とのグルーヴの違いが面白い。トラップとアフリカ音楽が交わる⑤のビートも刺激的だ。

サウンドにも拘りが感じられる。様々な音がダイナミックに抜き差しされる①や、言葉が木霊し意味が演奏に溶け込むような④は空間的な音像だ。トランペットの多重録音も多く、編成ありきではなく、ヴィジョンを具体化するために必要な音を揃えていることが分かる。アジアの宮廷音楽を思わせる①や、西部劇の馬の足音のようなリズムの②など、サウンドがイメージを喚起する点も魅力的。

曲の構造にも注目したい。ピアノはソロの伴奏をしたり曲を進行させたりすることはなく、ループして曲を繋留。各楽器間でのインタープレイもない。そのようなジャズの方法論を放棄し、リズム隊をトラップのビートのように位置付け、その上で悠然とトランペットを吹く構成が鮮烈だ。ヒップホップ・グループ、ミーゴスに影響を受けたというが、前作のようにジャズの構造の中に現代的なビートを導入するだけでなく、曲の構造まで作り変えていることに驚いた。

そのソロ演奏が最大の聴きどころだ。円環的なリズムの上でトランペットが感情を解き放つ②、③や、フルートが機械のような精度で動き回る⑥には意識を釘付けにさせられる。革新的なビートと情景的なサウンド、そして感情表現としての演奏が結びついた本作は、異なるジャンルを取り込んで表現を拡張する”ストレッチ・ミュージック”の最新型であり、クリスチャン・スコットの最高到達点となる傑作だ。
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高橋アフィ「『Ruler Rebel』はドラムの音色を大幅に拡張した」

2016年青山ブルーノート。ステージに上がったクリスチャン・スコットが最初に行ったことは、PCからシーケンスを流すことであった。それに呼応するようにコーリー・フォンヴィルがドラムパッドでリズムを叩き出す。電子音が流れる中、クリスチャン・スコットが吹き始めた。

ここ数年、ジャズを筆頭としたドラム・ブームは、ドラマーがエレクトリックな音楽(DAWからサンプリングまで)に影響を受け、生演奏に取り入れていった流れとも言える。マーク・ジュリアナやクリス・デイヴを筆頭に、ドラマー達によるエレクトロなものを演奏に翻訳・解釈していく作業がスリリングだった。

その中でも、音色の探求は大きな潮流の一つだ。穴の開いたシンバルや重ねシンバル、極端にピッチを上げた/下げたスネアなど、まるで電子音のような音色を演奏中に鳴らすことは、今や当たり前のように行われている。楽器をプリペアド的に加工し、生楽器かつ疑似的な電子音として取り入れることによって、演奏の中に馴染ませていった。

●シンバルの組み合わせで音色の幅を広げるマーク・ジュリアナ

●様々な素材でドラムの音色を加工するベニー・グレブ

『Ruler Rebel』はその流れを大幅に拡張したと言えるだろう。一番最初に感じたことは、電子音の電子音らしい目立ち方だ。エレクトロなものが翻訳・解釈されずにそのままある。前作『Stretch Music』でも取り入れられていたドラムパッドはますます存在感を増し、2曲あるリミックスは打ち込みのリズムが主軸だ(”Rise Again”のリミックスはなんとトラップ風味!)。生楽器と電子音はまったく別物として扱われている。だが、それは不調和や打ち込み然としているというよりも、新たな「生々しい演奏」の印象を与えることになったと思う。むしろトータルの印象としては、ヴードゥー的な呪術感とうねるリズムが目立っている。特にクリスチャン・スコットの音色はどの作品よりも誠実に鳴っているのではないだろうか。

これはドラムパッドを鳴らすドラマー、そして周りのプレイヤー達が、電子音を生楽器とは別物かつ演奏するものとして扱った結果だ。疑似的な電子音を鳴らしていた楽器の(今思えば生楽器とうまく混ざる)バランスの良さに対し、使い辛かったドラムパッドやシーケンスを、ついに演奏するものとして真っ当に向き合うプレイヤーが集まったということだろう。音色的には馴染ませないが、例えばバッドをパッドとして叩く等、演奏として馴染ませたのだ。それにより生楽器と電子音の不自然な配置は、その不自然さゆえ、現代の様々な音楽と同時進行形に聴こえる。特にライブでのコーリー・フォンヴィルのドラムセットとドラムパッドの両刀使いは、あまりに自然に行き来することにこそ素晴らしさがある(そしてコーリー・フォンヴィルはR&Bグループ、ブッチャー・ブラウンではむしろ直球にドラムのみでファンキーなリズムを叩いていることも重要だ。このエレクトロへの気負いの無さは、個人的に面白い所だと思う)。

●『Ruler Rebel』収録”The Reckoning”のライヴ動画

●コーリー・フォンヴィルが所属する”ブッチャー・ブラウン”のスタジオ・ライヴ

ロバート・グラスパー・エクスペリメントでマーク・コーレンバーグがドラム・パッドを使用し、またジャズ・ドラマー達がthe Sensory Percussion(解説はこちら)というドラムトリガーを使用し始めたことはきっと偶然ではない。またドラム以外に目を向ければ、シンセベースやヴィンテージ・シンセの使用など、今まで飛び道具扱いされることもあったものが、楽器として当たり前に取り入れられている。ロボ声からマンブル・ラップのエフェクティブな音響だからこそ出てしまう感情も言わずもがなだ。生演奏と電子音の共存は、もはや新たなスタンダードと言えるだろう。
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