Luciana Souza」タグアーカイブ

All About ダニー・マッキャスリン / リズムを革新するサックス奏者

音楽性

イントロダクション

00年代半ば以降、ダニー・マッキャスリン(テナー・サックス、1966年カリフォルニア生まれ)は常に現代ジャズのもっとも活発なシーンの一翼を担ってきた。00年代と10年代の二つのカルテットを中心に、サックス・トリオやマリア・シュナイダー・オーケストラ、デヴィッド・ボウイ作品への参加など、その活動の幅は多岐にわたる。ここではそんな彼の音楽性を紹介する。

演奏家として

マッキャスリンの演奏でまず気付くのは、モチーフ展開の巧みさである。彼のインプロヴィゼーションは事前に用意したリックの集合体でも、アウトサイドとインサイドを往来するスケールの連続でもない。3~4音ほどのシンプルなモチーフを、リズム的、メロディ的に変化をつけながら次々と数珠つなぎのように繰り出し、起伏のあるドラマを作ってしまう所に彼の凄さがある。その演奏は「アドリブ」というよりも、作曲と即興の中間の「インプロヴァイズド・コンポージング」と呼べるものだ。

◆ダニー・マッキャスリンの代表的演奏(マリア・シュナイダー・オーケストラでのライブ)

作品での実例は数えきれないほどあるが、比較的長いものだと『Soar』収録の”O Campeão”(02:18から02:45まで)や『Declaration』の”M”(02:27から03:07まで)があげられる。前者はテーマに出てくるオスティナートを素材に、リズム的に次々と変化させていくことで即興に統一感を与えている。また後者は単純なフレーズを徐々に複雑に、アウトさせていくことで緊張感を高めクライマックスにつなげている。

マッキャスリンはこのようなアプローチをどうやって習得したのだろうか。一般的に彼のスタイルはジョン・コルトレーンとマイケル・ブレッカーがベースにあると言われている。しかしそこに彼ならではの独自性を加えているのが、ソニー・ロリンズからの影響である。バークリー音楽大学卒業後、当時の音楽教育がハーモニー的な側面に偏り、リズム・アプローチの重要さが見逃されていることに気付いた彼は、ソニー・ロリンズやラテン音楽、アフリカ音楽をヒントに様々なリズム・ボキャブラリーを積み重ねていく。ロリンズは楽曲テーマを素材にした即興(テーマティック・インプロヴィゼーション)の名手としても有名だが、そうした点もマッキャスリンはアイディアをもらっているのだろう(前述の”O Campeão”でのアプローチ)。

またそれ以外にもホンキートンクなトレモロ風フレーズ、独特な訛りを含んだタンギングやアーティキュレーションなど、ロリンズの語法を現代的に再解釈したと思われる部分は多い(もちろんメロディックなモチーフ展開はウェイン・ショーター、ファンキーな要素はブレッカー、奏法はバークリー時代の師ジョージ・ガゾーンなどからも継承しているが)。

◆ダニー・マッキャスリンを読み解く作品
上段左から
Sonny Rollins – What’s New ? (1962)
Herbie Hancock – Head Hunters (1973)
Maria Schneider – Allegresse (2000)
下段左から
Danilo Perez – Motherland (2000)
Aphex Twin – Drukqs (2001)
Deadmau5 – while (1<2) (2014)

ファースト・カルテット

90年代からダニーロ・ペレスやデヴィッド・ビニーたちに起用され、演奏家として信頼を集めていたマッキャスリン。だが自身の音楽性をフルに発揮した作品は、00年代半ばまで作れないでいた。しかしマリア・シュナイダー・オーケストラに起用されたことが、彼の音楽家としての方向性を決定づける。当時、マリアは持ち前のクラシカルで水平的なオーケストレーションに、ブラジル/ラテン音楽のサウンドやリズムを取り入れた楽曲”Hang Gliding”や”Journey Home”を制作し、ラージアンサンブル・シーンに新たな局面を開いていた。マッキャスリンは彼女のバンドのメンバーとしてこれらの楽曲に触れることで、新しいコンセプトを思いつく。それが彼とベン・モンダー、スコット・コリー、アントニオ・サンチェスのカルテットを中心とした3作(『Soar』、『In Pursuit』、『Declaration』)だった。

これらの作品で登場する「ラテン的なパーカッションとジャズドラムのポリリズム」、「コードごとのかたまりではなく、メロディをレイヤー状に重ねたオーケストレーション」は、00年代初頭にマリアが確立したアプローチを受け継いでいる。一方で、マリアがインスピレーションを受けていたブラジルやアルゼンチン周辺の音楽に加えて、マッキャスリンの場合はキューバやパナマといったカリブ海周辺の音楽からも色濃く影響されている。こうした方向性は前述のソニー・ロリンズからの流れもあるが、一番はパナマ出身のピアニスト、ダニーロ・ペレスとの活動による所が大きい。ペレスといえば、近年のラテン音楽を取り入れたジャズの発展に大きく貢献した人物として評価が確立されている人物。90年代にペレスのバンドに参加していたマッキャスリンは、毎回練習時にラテン音楽のアイディアを彼から貪欲に吸収していたという。

『Soar』の楽曲を構想した時、マッキャスリンの頭の中にはかなり鮮明に完成時のサウンドが鳴っていたのではないだろうか。それほど本作の内容は新しいグループの一作目とは思えないほど洗練されている。続く『In Pursuit』、『Declaration』は『Soar』のバリエーション的作品で、この2枚も一作目と甲乙つけがたいクオリティだ。二作目の『In Pursuit』は彼の多く作品でプロデューサーを務めるデヴィッド・ビニーが演奏に加わり、『Soar』よりもダークでアヴァンギャルドな作風に。一方、シリーズ最終作『Declaration』はブラスセクションに大きくスポットを当てて、ミドルアンサンブル作品の傑作に仕上げている。

◆主なサイドマン作品
上段左から
Steps Ahead – Vibe (1995)
Maria Schneider – Concert in the Garden (2004)
Torben Waldorff – American Rock Beauty (2010)
下段左から
Joel Harrison – Search (2011)
Antonio Sanchez – New Life (2013)
David Bowie – ★(Blackstar) (2016)

セカンド・カルテット

ファースト・カルテットの活動後、マッキャスリンはデヴィッド・ビニーの勧めでエレクトロニック楽器を導入した作品『Perpetual Motion』を制作する。後のセカンド・カルテットのメンバーであるティム・ルフェーヴルとマーク・ジュリアナも参加している作品だが、この時点ではビニーとの共作”Impossible Machine”を除き、70年代のソウル・ミュージックやジャズ・ファンクを志向した作品になっていた。

しかしそのサウンドは次作『Casting For Gravity』で一変する。キーボードにジェイソン・リンドナーを加え、エイフェックス・ツインをはじめとするエレクトロニック・ミュージックのリズムと質感を取り入れた音楽性にシフト。ただしファースト・カルテットが一作目の時点ですでにコンセプトがほぼ完成されていた一方で、セカンド・カルテットは一作ごとに試行錯誤を繰り返しながら音楽性を発展させていくより実験的なグループになった。

一作目『Casting For Gravity』はリズムマシーン的なビートのマーク・ジュリアナと、ゆったりとしたレガート的なタイム感のマッキャスリンという、対称的なリズム感覚を持つ二人の対比がコンセプトだったと言えるだろう。本作に最も影響を与えたというエイフェックス・ツインの『Drukqs』をマッキャスリンが聴いた時、このドラムンベース的なリズムの上で自分がインプロヴィゼーションをすれば新しい音楽が作れるかもしれない、と考えたに違いない。続いて二作目の『Fast Future』は、一作目に比べてテーマ部とソロパートの両方でジェイソン・リンドナーの影響力/支配力がぐっと増したことで、エレクトロニックなサウンドが拡大されている。テナーとリズム隊を分けて捉えた前作とは対称的な、グループ・サウンドを前面に押し出した作品だ。またリーダーのマッキャスリンだけでなく、プロデューサーのビニー含め、それぞれのミュージシャンが演奏アイディアやカバー曲を提案していく音楽的コレクティブに発展したのもこの頃からである。

その後、マッキャスリン・カルテットの音楽性をさらに大きく変える出来事が訪れる。言うまでもなくデヴィッド・ボウイ『★』への全面参加である(ボウイがマリア・シュナイダーと共作したことがきっかけで、彼がマッキャスリンを知ったことはあまりにも有名だ)。『★』の収録では、マッキャスリンは単なるスペースを埋めるための伴奏楽器の役を超え、ボウイとのツイン・ヴォーカルやバック・コーラス的な役を務める。このレコーディングを通過して作られた『Beyond Now』では、サックス演奏はフラジオやオーバートーン、グロウルトーンなど音色/音質面でのアプローチがかつてないほど拡大し、非常にヴォーカル・ライクなものになった(”Coelacanth 1″、”Warszawa”が好例。一方、”Faceplant”のようにこれまでの奏法も意図的に残している)。『Beyond Now』は単なるボウイ追悼作ではなく、晩年のボウイとマッキャスリンが互いの音楽性を高めあった結果と言えるだろう。

◆ダニー・マッキャスリン・セカンドカルテット

結び

ラテン音楽やエレクトリック・ミュージックなどの語法を使って、ジャズの可能性を切り開き続けてきたマッキャスリン。時としてその音楽性は、ロマン主義に傾きすぎてしまうきらいが無いではない。しかしジャズと他ジャンルの融合を夢見てきた70年代以降のミュージシャンたちの理想が、ここでは確かに実現している。それは何故だろうか。

まずはファースト・カルテットもセカンド・カルテットも、その音楽性が彼のルーツに深く根ざしていることがあげられる。マッキャスリンが生まれたカリフォルニアのサンタ・クルーズという街はヒスパニック系の住民が多く、彼も幼いころより自然とレゲエやサルサなどに触れていたという。この時の体験がファースト・カルテットにつながっているはずだ。また、セカンド・カルテットのダブ的な要素は、その時聴いていたレゲエにルーツがあるのだろうし、エレクトリックなサウンドは10代の時参加していた父親のジャズ/ファンクバンドでの経験がベースになっていると考えられる。

一方で、NYに移ってからの幅広い交流関係も要因にあげておきたい。彼のプロジェクトはいずれもサイドマンとして活動していたバンドでの経験や、シーンを主導するミュージシャンとのコネクションから発展している。そうした人脈を築くためにはハイレベルな演奏/作曲能力はもちろん、マッキャスリンの高い人間性も関係しているに違いない(彼は敬虔な長老派教会の信徒でもある)。厳かでエゴイスティックな従来の芸術家像とは真逆の姿勢は、ジャズに限らずこれからのアーティストのあり方を体現しているように思える。


ダニー・マッキャスリンの名盤

※タイトルをクリックするとAmazon商品ページに飛びます。

Donny McCaslin – Soar
Sunnyside (2006)

Donny McCaslin (ts, fl), Luciana Souza (vo), Ben Monder (g), Orrin Evans (p), Scott Colley (b), Antonio Sanchez (ds), Pernell Saturnino (per)

with: Shane Endsley (tp), Luis Bonilla (tb)

Track Listing ① Tanya ② O Campeao ③ Push Up The Sky ④ Hero As A Boy ⑤ Be Love ⑥ Grafton ⑦ Soar ⑧ Laid Bare ⑨ Merjorana Tonosieña

「カリブ海沿岸の街を旅しているような強いイメージ喚起力」
ファースト・カルテットの1枚目。アルバムの冒頭と終わりにはアレンジしたパナマの伝統音楽を収録し、その間に7曲のオリジナルが並ぶ。前半から中盤はヴォイスやフルートが織りなす繊細なアンサンブルが展開され、後半になるとそこにブラス楽器が加わり、クライマックスにふさわしい厚みのあるサウンドに。コンセプトアルバムではないが作品全体が構成的に練られており、まるでカリブ海沿岸の街を旅しているような強いイメージ喚起力がある。

サックスによるトゥンバオ風のテーマが印象的な②と、マリア・シュナイダーを想起させる雄大なテーマの③はアルバムの顔的存在で、マッキャスリンの躍動感あるインプロヴィゼーションも映えている。また後半の⑦は力強いメロディにフルートやトランペットのラインが対位法的に絡み合うテーマや、モンダーとマッキャスリンの白熱したソロ、最後の無伴奏コーダなど聴き所が多い。そしてダークなイントロから始まる⑧は、メンバーのソロを経て後半の祝祭的なアンサンブルへと昇り詰める展開が素晴らしい。

メンバー個々の活躍も見逃せない。ソウザの透明な声はファースト・カルテットの作品中、本作だけでしか聴けないし、サンチェスは情報量の多い楽曲を、抑えたドラムで上手くまとめている。モンダーはアコースティック・ギターでフォークロアの雰囲気を演出したり、アンサンブルのつなぎ役になったりと、マリア・オーケストラさながらの八面六臂の活躍をしている。(北澤)
※アルバム後半に数ヶ所エラー音がみられるため、購入前にBandcampなどでの試聴をお勧めします。


Donny McCaslin – In Pursuit
Sunnyside (2007)

Donny McCaslin (ts, fl), David Binney (as), Ben Monder (g), Scott Colley (b), Antonio Sanchez (ds), Pernell Saturnino (per)

Track Listing ① A Brief Tale ② Descarga ③ Madonna ④ Sea of Expectancy ⑤ In Pursuit ⑥ Village Natural ⑦ Send Me a Postcard ⑧ Fast Brazil ⑨ Festival In 3 Parts

演奏メンバーは前作からスリム化し、レギュラー・カルテットにデヴィッド・ビニーを加えた5人が主体に。前作で見せたリニアなオーケストレーションはそのままに、レギュラーバンドならではの一体感/アグレッシブさが前面に出ている。引き続き取り組んでいるアフロ・カリビアンな楽曲は②のように更にエモーショナルになったり、⑨のように複雑で物語的な展開になったりと、まさに『Soar』の続編と言える作品。

また、前作のプロデューサーであるビニーが演奏にも加わっているだけに、彼の音楽性が色濃く反映されていることも特徴だ。⑤のようなアヴァンギャルドな曲や③、④、⑦のように上昇感のあるコード進行にキャッチーなリフを繰り返して高揚感を誘うビニー的な楽曲が並ぶ。また③、⑤、⑨ではリーダーを食いかねないアグレッシブなアルトを演奏している。(北澤)


Donny McCaslin – Declaration
Sunnyside (2009)

Donny McCaslin (ts, fl), Edward Simon (p, org), Ben Monder (g), Scott Colley (b), Antonio Sanchez (ds)

with: Pernell Saturnino (per), Alex Sipiagin (tp, flugelhorn), Chris Komer (french horn), Marshall Gilkes (tb), Marcus Rojas (tuba), Tatum Greenblatt (tp)

Track Listing ① M ② Fat Cat ③ Declaration ④ Uppercut ⑤ Rock Me ⑥ Jeanina ⑦ 2nd Hour ⑧ Late Night Gospel

前作とは逆に南米音楽的な楽曲は②のみしかなく、アンサンブルに比重が置かれた作品。フレンチ・ホルンやチューバなどを配した3~5管のふくよかで厚みのあるブラス・ユニットが、ファースト・カルテットの演奏を盛りたてる。特に南国の果実の匂いが漂ってきそうな芳醇なサウンドの②や、チューバの低音が効いたノスタルジアを誘う曲調の③が素晴らしい。そして何よりもギル・ゴールドスタインがアシスタントで参加しているとはいえ、マッキャスリンのアレンジ力の高さに驚かされる。

サイドマンの演奏では、エドワード・サイモンが和声センスの高いソロピアノを披露している①、ベン・モンダーが歪み系エフェクト全開で暴れまわる⑤、同じくモンダーがほの暗いクリーントーンで楽曲に陰影を与えている⑥が聴きどころだ。(北澤)


Donny McCaslin – Recommended Tools
Greenleaf (2008)

Donny McCaslin (ts), Hans Glawischnig (b), Johnathan Blake (ds)

Track Listing ① Recommended Tools ② Eventual ③ Late Night Gospel ④ Excursion ⑤ Isfahan ⑥ The Champion ⑦ Margins of Solitude ⑧ 3 Signs ⑨ 2nd Hour Revisited ⑩ Fast Brazil

テナー奏者なら誰もが挑戦するサックストリオ作品の中でもキラリと光る一枚。また、好きな作曲家をイメージした楽曲や過去作の再演が多く、自叙伝的な作品とも言える。

全員の魅せ場が用意されている①やギル・エヴァンスの名曲”Time of the Barracudas”に影響を受けた②、リズミカルなキメと現代音楽的なスケールが交互に出てくる④などは、サックストリオならではのインタープレイの楽しさに満ちている。またマッキャスリンのソロは⑥ではシャウトするソウルシンガーさながらだし、⑦ではファルセットで歌い上げるオペラ歌手のようだ。『Beyond Now』につながる声楽的なスタイルは、すでにこの時に準備されていたのかもしれない。各楽器のアコースティックな質感もよく録れていて、ジャズ喫茶の大きなスピーカーの前で聴きたい作品だ。(北澤)


Donny McCaslin – Casting for Gravity
Greenleaf (2012)

Donny McCaslin (ts), Jason Lindner (keys), Tim Lefebvre (eb), Mark Guiliana (ds)

with: David Binney (vo, synth)

Track Listing ① Stadium Jazz ② Says Who ③ Losing Track of Daytime ④ Alpha and Omega ⑤ Tension ⑥ Praia Grande ⑦ Love Song for an Echo ⑧ Casting for Gravity ⑨ Bend ⑩ Henry

エレクトロニック・カルテットの初作。今作の特徴はリズム的なアプローチだ。メロディが細分化されてリズムと不可分になった②や、メロディが反復される中、ビートが次々に変化していく④にはエイフェックス・ツインの影響が感じられる。

演奏面にも独自性が現れている。マーク・ジュリアナはエレクトロニック・ミュージックの打ち込みのような、音の長さが短く、強弱を付けずにリニアに進むドラムで曲を推進しつつ、演奏に有機的に反応。ティム・ルフェーヴルはエフェクターを使いベースの質感を切り替え、ジェイソン・リンドナーはシンセの音色をリアルタイムで変化させ、マッキャスリンはサックスの肌触りをコントロールする。全員が音の質感を操り、曲中でテクスチャーを変化させるのが持ち味だ。

作曲面ではヴァース→コーラスの形式で進行する、歌もののような曲構造が特徴的だ。コーラスではうっすらとヴォイスが加わる曲もある。今作ではそこにリズムやテクスチャーの要素が加わり、奥行きが生まれている。初作にして、彼らの魅力が出揃っている作品だ。(佐藤)


Donny McCaslin – Fast Future
Greenleaf (2015)

Donny McCaslin (ts), Jason Lindner (keys), Tim Lefebvre (eb), Mark Guiliana (ds)

with: Nina Geiger (vo), Jana Dagdagan (vo), Nate Wood (g), David Binney (vo, synth)

Track Listing ① Fast Future ② No Eyes ③ Love and Living ④ Midnight Light ⑤ 54 Cymru Beats ⑥ Love What Is Mortal ⑦ Underground City ⑧ This Side of Sunrise ⑨ Blur ⑩ Squeeze Through

エレクトロニック・カルテットの第二作。リズム的なアプローチはやや控えめとなり、歌もののような展開の曲が中心になっている。歌うようなサックスとヴォイスがユニゾンする②や、サウンドに溶け込むようなうっすらした質感ではなく、肉声に近いヴォイスを聴かせる④は、より歌ものに近づいた印象。曲中に語りが挿入される⑥には、演奏そのものだけではなく、イメージも伝える表現にシフトしていることが感じられる。

エレクトロニックなサウンドへの傾倒も特徴的だ。バスのカヴァー②では、サックスの多重録音やシーケンサーも用い、空間的なサウンドを構築。ジェイソン・リンドナーのシンセの音色の幅はさらに広がり、曲の展開部では場面転換のように機能している。聴き手を別次元に誘う強烈なシンセソロや、美しいピアノも聴きどころだ。

⑩のダブ〜レゲエのサウンドに乗ったリズミカルなサックスには、マッキャスリンが影響を受けたソニー・ロリンズの姿が浮かぶ。前作の延長線上にありながら、イメージ喚起力や表現力が加わり、世界観が広がった作品だ。(佐藤)


Donny McCaslin – Beyond Now
Motema Music (2016)

Donny McCaslin (ts), Jason Lindner (keys), Tim Lefebvre (eb), Mark Guiliana (ds)

with: Jeff Taylor (vo), Nate Wood (g), David Binney (vo, synth)

Track Listing ① Shake Loose ② A Small Plot of Land ③ Beyond Now ④ Coelacanth 1 ⑤ Bright Abyss ⑥ Faceplant ⑦ Warszawa ⑧ Glory ⑨ Remain

「エモーショナルなプレイにボウイの影響を思わずにはいられない」

メンバー全員がデヴィッド・ボウイ『★』に参加した後の作品となるエレクトロニック・カルテットの第三作。今作はマッキャスリンのプレイを中心に、感情を表現している点が特徴的だ。デッドマウスのカヴァー④では、ブライアン・イーノに通じるアンビエントのサウンドがボウイを想起させるとともに、鎮魂歌のように響くサックスにマッキャスリンの思いが感じられる。③では絞り出すような高音が熱さを感じさせ、ミュートマスのカヴァー⑨では歌い上げるように吹かれるサックスがどこまでもエモーショナル。リズミカルで音響的なプレイからここまで振り切ったことにボウイの影響を思わずにはいられない。

ダークなムードが作品全体を覆っているようにも思えるが、初作からの路線も継続されており、曲調は幅広い。②では初めて歌詞を伴ったヴォーカルが参加し、歌ものへの志向が完全なかたちになっている。即興演奏のさなかに突然、サックスとシンセがシンクロして音響的な山場を作る①や、エイフェックス・ツインに影響を受けたというリズム・オリエンテッドな⑥など、カルテットの特徴とも言える音楽性が存分に味わえる。ジェイソン・リンドナーのプレイもさらに自由度を増しており、③でのギターのように聴こえるシンセソロや、⑥での同じフレーズを繰り返して音色だけ変えるソロ、⑧での曲中でのピアノ独奏には耳を奪われる。過去からの路線は残しつつ、さらにスケールの大きい表現に向かった作品だ。(佐藤)


アナライズ

Ex-1: 複雑な拍子の中を、モチーフの展開を使って自由に泳ぎまわるフレージング
※譜面をクリックすると拡大して表示されます。

3音でできている【Motif a】を最初の4小節で試し、その後少しハネたスイングフィールに変化させ展開させている。【Motif b】は【Motif a】の変形とも言える3音の上昇型。ここではシンプルな分、モチーフのリズムも変形させ引き伸ばしたり押し縮めてフレーズを作っている。

【Motif c】はスケールに沿った4音の下降型。曲のリズムに対して微妙にゆっくりなフレーズで譜面上は2拍5連や3連のリズムで表しているが、より自由に自分のタイム感を感じながらモチーフの展開と解決を考え演奏しているように聴こえる。

F7sus(add3)のコード上で(オリジナルの譜面表記)、最初はシンプルにFミクソリディアン(Bbメジャースケール)を用い、その後Eメジャースケールを使ってアウト感を出している。そしてモチーフを展開しきった後はFブルーススケールに着地する。

この曲では、ここでピックアップした部分以外にも4分以上に渡る圧巻のソロを、ほぼ音程/リズムのモチーフ展開のみでの演奏。拍子も3/4+3/4+3/4+2/4の11拍子系で、場面の展開によりさらに様々なアクセントが付く。その上で単純なものから複雑なものまで様々なモチーフ展開を使ってソロのストーリーを組み立てている。


制作

北澤(Twitter / Facebook): 音楽性、作品解説
古川靖久(Website): テクニカルアドバイス、奏法分析
佐藤 悠(Twitter): 作品解説
福田(Twitter / YouTube): 主なサイドマン作品 選盤
今井 純(Twitter / Blog): 資料提供

出典や、詳しいバイオグラフィーはこちら