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Cross Review 03: クリスチャン・スコット『Ruler Rebel』

現代のジャズを代表するトランペッター/ソングライター、クリスチャン・スコットはかつてこう言った。「新しいパレットを作りたいと思っている。ジョン・コルトレーンのカルテットは、それまでのジャズの在り方をひっくり返した。同じように、僕は未来の世代のために違うやり方があるんだということを示したい」(CD Journal 2009年1月号)。

その言葉通り彼は『Stretch Music』(2015年)と先日リリースした『Ruler Rebel』(2017年)で、今までのジャズ界ではほとんど前例がないリズム/サウンド・プロダクションを導入し、「新しいパレット」を我々の前に提示してみせた。それを受けて今回は、現在進行形のジャズを追う佐藤 悠 氏とTAMTAMのドラム/プログラミング担当、高橋アフィ氏に最新作『Ruler Rebel』のレビューを依頼し、近年のクリスチャン・スコットの音楽性と、これからのジャズの形を読み解いてもらうことにした。
※レビューの並びは50音順です。


アルバムデータ

Christian Scott – Ruler Rebel
Ropeadope Records (2017)

01. Ruler Rebel
02. New Orleanian Love Song
03. New Orleanian Love Song II (X. aTunde Adjuah Remix)
04. Phases
05. Rise Again (Allmos Remix)
06. Encryption
07. The Coronation of X. aTunde Adjuah
08. The Reckoning

Christian Scott – Trumpet, Flugelhorn, Sampling Pad, etc
Elena Pinderhughes – Flute (6, 7)
Cliff Hines – Guitar (1, 4, 6-8)
Lawrence Fields – Piano, Fender Rhodes (1-3, 5-8)
Luques Curtis – Bass (4)
Kris Funn – Bass (7, 8)
Joshua Crumbly – Bass (6)
Corey Fonville – Drums, Sampling Pad (1-3, 6-8)
Joe Dyson Jr. – Pan African Drums, Sampling Pad (1-4, 6, 8)
Weedie Braimah – Djembe, Bata, Congas (1-3, 5, 7)
Chief Shaka Shaka – Dununba, Sangban, Kenikeni (1-3, 5, 7)
Sarah Elizabeth Charles – Vocals (4)


佐藤 悠「クリスチャン・スコットの最高到達点」

まずリズムに触れておきたい。前作にも参加したシンセ・パッドを併用するドラマー二人に加え、パーカッショニストを二人起用し、曲によって使い分けている。ベースレスで打楽器奏者四人が叩く①、②、③と、太いベースが鳴る⑦、⑧とのグルーヴの違いが面白い。トラップとアフリカ音楽が交わる⑤のビートも刺激的だ。

サウンドにも拘りが感じられる。様々な音がダイナミックに抜き差しされる①や、言葉が木霊し意味が演奏に溶け込むような④は空間的な音像だ。トランペットの多重録音も多く、編成ありきではなく、ヴィジョンを具体化するために必要な音を揃えていることが分かる。アジアの宮廷音楽を思わせる①や、西部劇の馬の足音のようなリズムの②など、サウンドがイメージを喚起する点も魅力的。

曲の構造にも注目したい。ピアノはソロの伴奏をしたり曲を進行させたりすることはなく、ループして曲を繋留。各楽器間でのインタープレイもない。そのようなジャズの方法論を放棄し、リズム隊をトラップのビートのように位置付け、その上で悠然とトランペットを吹く構成が鮮烈だ。ヒップホップ・グループ、ミーゴスに影響を受けたというが、前作のようにジャズの構造の中に現代的なビートを導入するだけでなく、曲の構造まで作り変えていることに驚いた。

そのソロ演奏が最大の聴きどころだ。円環的なリズムの上でトランペットが感情を解き放つ②、③や、フルートが機械のような精度で動き回る⑥には意識を釘付けにさせられる。革新的なビートと情景的なサウンド、そして感情表現としての演奏が結びついた本作は、異なるジャンルを取り込んで表現を拡張する”ストレッチ・ミュージック”の最新型であり、クリスチャン・スコットの最高到達点となる傑作だ。
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高橋アフィ「『Ruler Rebel』はドラムの音色を大幅に拡張した」

2016年青山ブルーノート。ステージに上がったクリスチャン・スコットが最初に行ったことは、PCからシーケンスを流すことであった。それに呼応するようにコーリー・フォンヴィルがドラムパッドでリズムを叩き出す。電子音が流れる中、クリスチャン・スコットが吹き始めた。

ここ数年、ジャズを筆頭としたドラム・ブームは、ドラマーがエレクトリックな音楽(DAWからサンプリングまで)に影響を受け、生演奏に取り入れていった流れとも言える。マーク・ジュリアナやクリス・デイヴを筆頭に、ドラマー達によるエレクトロなものを演奏に翻訳・解釈していく作業がスリリングだった。

その中でも、音色の探求は大きな潮流の一つだ。穴の開いたシンバルや重ねシンバル、極端にピッチを上げた/下げたスネアなど、まるで電子音のような音色を演奏中に鳴らすことは、今や当たり前のように行われている。楽器をプリペアド的に加工し、生楽器かつ疑似的な電子音として取り入れることによって、演奏の中に馴染ませていった。

●シンバルの組み合わせで音色の幅を広げるマーク・ジュリアナ

●様々な素材でドラムの音色を加工するベニー・グレブ

『Ruler Rebel』はその流れを大幅に拡張したと言えるだろう。一番最初に感じたことは、電子音の電子音らしい目立ち方だ。エレクトロなものが翻訳・解釈されずにそのままある。前作『Stretch Music』でも取り入れられていたドラムパッドはますます存在感を増し、2曲あるリミックスは打ち込みのリズムが主軸だ(”Rise Again”のリミックスはなんとトラップ風味!)。生楽器と電子音はまったく別物として扱われている。だが、それは不調和や打ち込み然としているというよりも、新たな「生々しい演奏」の印象を与えることになったと思う。むしろトータルの印象としては、ヴードゥー的な呪術感とうねるリズムが目立っている。特にクリスチャン・スコットの音色はどの作品よりも誠実に鳴っているのではないだろうか。

これはドラムパッドを鳴らすドラマー、そして周りのプレイヤー達が、電子音を生楽器とは別物かつ演奏するものとして扱った結果だ。疑似的な電子音を鳴らしていた楽器の(今思えば生楽器とうまく混ざる)バランスの良さに対し、使い辛かったドラムパッドやシーケンスを、ついに演奏するものとして真っ当に向き合うプレイヤーが集まったということだろう。音色的には馴染ませないが、例えばバッドをパッドとして叩く等、演奏として馴染ませたのだ。それにより生楽器と電子音の不自然な配置は、その不自然さゆえ、現代の様々な音楽と同時進行形に聴こえる。特にライブでのコーリー・フォンヴィルのドラムセットとドラムパッドの両刀使いは、あまりに自然に行き来することにこそ素晴らしさがある(そしてコーリー・フォンヴィルはR&Bグループ、ブッチャー・ブラウンではむしろ直球にドラムのみでファンキーなリズムを叩いていることも重要だ。このエレクトロへの気負いの無さは、個人的に面白い所だと思う)。

●『Ruler Rebel』収録”The Reckoning”のライヴ動画

●コーリー・フォンヴィルが所属する”ブッチャー・ブラウン”のスタジオ・ライヴ

ロバート・グラスパー・エクスペリメントでマーク・コーレンバーグがドラム・パッドを使用し、またジャズ・ドラマー達がthe Sensory Percussion(解説はこちら)というドラムトリガーを使用し始めたことはきっと偶然ではない。またドラム以外に目を向ければ、シンセベースやヴィンテージ・シンセの使用など、今まで飛び道具扱いされることもあったものが、楽器として当たり前に取り入れられている。ロボ声からマンブル・ラップのエフェクティブな音響だからこそ出てしまう感情も言わずもがなだ。生演奏と電子音の共存は、もはや新たなスタンダードと言えるだろう。
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The Dozens 01: 現代ジャズを彩る女性ヴォーカル作品12選

今、ジャズの世界ではグレッチェン・パーラトを中心に、女性ヴォーカリストが広く注目を集めている。ここ1、2年を見ただけでも、カミラ・メサ(チリ)、ジョアンナ・ウォルフィッシュ(イギリス)、エリーナ・ドゥニ(アルバニア)、サラ・セルパ(ポルトガル)などが、自らの音楽的ルーツとモダンジャズ/21世紀のジャズを融合させた楽曲を書き、個性的かつ洗練された歌声を披露している。

かつて”ジャズ・ヴォーカル”という分野は、ノーマ・ウィンストンやカサンドラ・ウィルソンをわずかな例外として、管楽器やピアノなどインストゥルメンタル(器楽)中心のモダンジャズ・シーンとは異なる歴史を辿ってきた。しかしこの10~15年ほどで状況は一変した。レベッカ・マーティンやルシアーナ・ソウザなどの幅広い活動でジャズ・ヴォーカルとジャズ・インストゥルメンタルは急速に接近し、今やバンドのアンサンブルではギターやサックスと同等の地位を築いているといっても過言ではない(その最たる例がマリア・シュナイダー『Concert in the Garden』である)。

そこで今回は現代ジャズの一翼を担うこのシーンを見渡すために、若手・中堅世代(1975-89年生まれ)の女性ヴォーカリストを12人選び代表作をレビューしてみた。人選は①レパートリーがオリジナル曲中心であること、②歌詞のないヴォカリーズも優れていること、③NYやベルリンなど特定の都市のジャズシーンに深く根ざしていることを重視した(①から彼女たちを”ジャズ・シンガー・ソングライター”と呼ぶことも可能だろう)。選んだアルバムを眺めてみると、今のジャズは”ヴォーカリストとインストゥルメンタル奏者がお互いを高め合う時代”なのだと実感させられる。

序文、選盤、略歴: 北澤(Twitter / Facebook
解説(50音順): 北澤、佐藤 悠(Twitter)、吉本秀純(Twitter / Facebook

※作品タイトルをクリックするとAmazon商品ページのタブが開きます。また記事中の音源は、再生までにタイムラグが発生することがあります。

グレッチェン・パーラト『The Lost and Found』
Obliq Sound (2011)

Gretchen Parlato (vo), Taylor Eigisti (p, keys), Derrick Hodge (b), Kendrick Scott (ds)
with: Dayna Stephens (sax) , Alan Hampton (vo, g) , Robert Glasper (rhodes)

【解説】
現代ジャズを代表する女性シンガーがロバート・グラスパーをプロデューサーに迎えた作品。R&Bの空気感を備えた生演奏に乗せて、優しい肌触りで、繊細な息の流れが見える管楽器のような歌声を聴かせてくれる。流れるようなスキャットや、楽器の音に声を重ねた時の響き、歌をループさせてバックの演奏を強調する場面も魅力的。時間を伸縮させる彼女の歌のリズム感覚は特別だ。(佐藤)
【略歴】
アメリカ、カリフォルニア州出身。幼少の頃よりジャズやブラジル音楽に触れて育つ。高校卒業後はセロニアス・モンク協会でテレンス・ブランチャードらに師事。自身の活動に加え、シャイ・マエストロやリオーネル・ルエケなど様々なミュージシャンの作品に参加。その歌唱スタイルは現代の多くのジャズシンガーにとって指標になっている。



ベッカ・スティーヴンス『Regina』

GroundUP Music (2017)

Becca Stevens (vo, g), Troy Miller (ds, keys), Michael League (vo, g), Liam Robinson (p, keys), Oli Rockberger (p), Chris Tordini (b), Jordan Perlson (ds), Attacca Quartet (String quartet)
with: Jacob Collier (vo, keys), Laura Mvula, David Crosby, Alan Hampton, Jo Lawry (vo)

【解説】
若手シンガーの中でも特に注目を集めるベッカが、歴史や文学に登場する女性にインスパイアされて制作したアルバム。これまでのライブパフォーマンスを前提とした作品とは違い、ここではスタジオ録音ならではの表現を深く追求している。多重録音によって幾重にも重ねられた鮮やかな歌声はまるで管弦楽曲のようであり、深みと広がりが感じられる音響は教会音楽を彷彿とさせる。(北澤)

Cross Review 02: ベッカ・スティーヴンス『Regina』(by 高橋健太郎、村井康司)

【略歴】
アメリカ、ノース・カロライナ州出身。ジャズ、クラシック、ブルーグラス、ジョニ・ミッチェルなどから影響を受けた音楽性が特徴。それ以外にもロックや電子音楽などのリズム/テクスチャーを使いこなす。ジャズミュージシャンの作品に加えて、デヴィッド・クロスビー、スナーキー・パピーの作品にも参加している。



ティレリー『Tillery』

Self-Released (2016)

Becca Stevens (vo), Rebecca Martin (vo, g), Gretchen Parlato (vo)
with: Pete Rende (keys), Larry Grenadier (b), Mark Guiliana (ds)

【解説】
凛としたベッカ、艶のあるパーラト、憂いを帯びたマーティンの声が織りなす、ビーチボーイズやサイモン&ガーファンクルを彷彿とさせる芳醇なコーラス・ワークが素晴らしい。ポリフォニーや複合リズム、ハーモニーの無駄のない重ね方は、単にジャズSSWシーンのタレント3人を集めただけでは不可能。サウンドは静寂にして雄弁。まさにレス・イズ・モアを体現したアルバム。(北澤)
【略歴】
2010年にメンバー3人が昼食会で集まり、その時に行ったセッションがきっかけで結成したヴォーカル・グループ。ライブだけでなく各地でワークショップも開いている。最年長のレベッカ・マーティンは、カート・ローゼンウィンケルやブライアン・ブレイドと同時代的な活動をし、後継に大きな影響を与えた存在。


カミラ・メサ『Traces』
Sunnyside Records (2016)

Camila Meza (vo, g), Shai Maestro (p, keys), Matt Penman (b), Kendrick Scott (ds), Bashiri Johnson (per)
with: Jody Redhage (cello), Sachal Vasandani (vo)

【解説】
ファビアン・アルマザンの作品での歌声で印象を残したシンガー/ギタリストのサニーサイド第一弾。躍動感のある節回しと飛翔するような伸びやかな歌声に雄大な自然のイメージが浮かんでくる。物語性の強いソングライティングとアレンジによって歌の世界に引き込まれ、ギターソロとスキャットの並走に何度でも夢中にさせられる。シンプルな弾き語りの歌声も魅力だ。(佐藤)
【略歴】
現在NYで活動するチリ、サンティアゴ生まれのシンガー。10代からプロミュージシャンとして活動し、2007年に『Skylark』でデビュー。その後アメリカのニュースクールに進学し、様々なギタリスト/作曲家に師事する。歌声だけでなく、ビクトル・ハラなど南米のSSWに影響を受けた楽曲、伴奏楽器を超えた現代的なギター演奏も特徴。


サラ・エリザベス・チャールズ『Inner Dialogue』
Truth Revolution Records (2015)

Sarah Elizabeth Charles (vo), Jesse Elder (p, keys), Burniss Earl Travis II (b), John Davis (ds)
with: Christian Scott (tp), Camila Meza (g), Jesse Fischer (glockenspiel)

【解説】
クリスチャン・スコットが演奏とプロデュースで参加した新鋭女性ヴォーカリストの作品。透明で神秘的な歌声で歌われるジャズ、ソウル、ラテン、ハイチの伝統曲など多様な楽曲には実験的なアレンジが盛り込まれ、幻想的な多重録音コーラスや、演奏の背後にシンセのように広がるヴォイスも含めて、彼女の世界観がサウンド全体で表現されている。(佐藤)
【略歴】
ハイチ出身の父親を持つアメリカ、マサチューセッツ生まれのシンガー。NYのニュースクール卒業後、2012年に『Red』でデビュー。トランペッターのクリスチャン・スコットは「もし自分が女性シンガーなら、彼女のようなサウンドを作る」と評価する。『Inner Dialogue』に次ぐ新アルバムを2017年に発表予定。



ジョー・ロウリー『Taking Pictures』
ABC Music (2015)

Jo Lawry (vo, g, p), Will Vinson (as, p, key), Alan Hampton (vo, g), Matt Aronoff (b), Dan Rieser (ds), Jesse Lewis (g)
with: Sting (vo), Brian Charette (org), John Ellis (b-cl), Theo Bleckmann (vo), Jamey Haddad (per) Other

【解説】
1曲目の夏草の匂いが漂ってきそうな弦楽器/ブラス楽器の響きに、彼女の柔らかな歌声が乗った時点で成功が約束されたアルバム。フォーク・ロック系の楽曲はどれも自己主張しすぎない巧みなアレンジがほどこされ、歌もさることながらアコーディオンやバスクラリネットといった追加楽器の音色に耳を奪われる。歴史を動かすようなセンセーショナルさが無い分、自分だけが知っていたいと感じる作品だ。(北澤)
【略歴】
現在NYを中心に活動しているオーストラリア出身のシンガー。ニューイングランド音楽院でダニーロ・ペレスに作曲を師事し、卒業後はスティングに起用されて歌手としての研鑽を積む。フレッド・ハーシュやクリストファー・ズアーのアンサンブル作品、ベッカ・スティーヴンス『Regina』などに参加。



ジェン・シュー『Sounds and Cries of the World』
Pi Recordings (2015)

Jen Shyu (vo, p, etc), Ambrose Akinmusire (tp), Thomas Morgan (b), Dan Weiss (ds), Mat Maneri (violin)

【解説】
日本も含む東南~東アジア圏の音楽を現代ジャズに掛け合わせた試みはまだまだ少ないが、スティーヴ・コールマンの近作でも存在感を示すこの才媛のリーダー作はその稀有な成功例。東ティモール、インドネシア、台湾、韓国などのトラッドや詩をベースとした非西欧的な歌と民族楽器に、即興性の高いプレイでその中からジャズ的な旋律を導き出して発展させるアキンムシーレらの演奏も秀逸。(吉本)
【略歴】
アメリカ、イリノイ州出身のアジア系シンガー。主にジャズとフリー・インプロヴィゼーションの領域で活動しているが、それ以外にも詩や舞踏、オペラなど幅広いバックボーンを持つ。アジア圏を中心とした民族音楽とMベース周辺の前衛的なジャズを調和させたスタイルが特徴的。



サラ・セルパ『All The Dreams』
Sunnyside Records (2016)

 Sara Serpa (vo, p, rhodes), André Matos (g, b, per)
with: Pete Rende (synthesizer), Billy Mintz (ds, per)

【解説】
サラ・セルパとアンドレ・マトスのデュオユニットによる2枚目のアルバム。追加ミュージシャンの演奏は最低限にとどめ、セルパの郷愁を誘う歌声とマトスの陰影感のあるギターに大きく焦点が当てられている。2人のラインは随所でオーバーダブが加えられ、最低限の情報量で音響的・空間的な快楽を表現。歌や詩という具象的な素材で描かれる淡くはかない抽象美。(北澤)
【略歴】
ポルトガル出身、現在NYで活動するヴォーカリスト。ニューイングランド音楽院でラン・ブレイクに師事し、その後グレッグ・オズビーのバンドでキャリアを積んだこともあり、時に調性感の薄い先鋭的なラインも用いる。垣谷明日香ジャズ・オーケストラ、ダニーロ・ペレスの作品にも登場。



ジョアンナ・ウォルフィッシュ『Gardens In My Mind』

Sunnyside Records (2016)

 Joanna Wallfisch (vo, p, ukulele), Dan Tepfer (p, melodica)
The Sacconi Quartet: Ben Hancox, Hannah Dawson, Robin Ashwell (violin), Pierre Doumenge (cello)

【解説】
冒頭の情感豊かな3曲から中盤の真夜中の街をさまようような孤独な楽曲まで、この作品の表現のレンジは実に幅広い。その喜びから哀しみまで包み隠さず表現するスタンスは、弾き語り時代のジョニ・ミッチェルのたたずまいを思い出させる。④、⑨~⑪以外の弦楽アレンジは彼女が担当しており、4つのラインを時にポリフォニックに、時に表情豊かに操っている。(北澤)
【略歴】
現在NYで活動しているイギリス、ロンドン出身のシンガー。2012年のデビュー作は正統派ジャズ・ヴォーカル作品だったが、その後Sunnysideで発表した2枚は彼女のルーツであるクラシック(親はともにクラシック演奏家)、シンガー・ソングライター系の音楽が色濃く反映されている。



イシス・ヒラルド『Padre』

Self-Released (2015)

Isis Giraldo (vo, p),Simon Millerd (tp), Mike Bjella (sax, cl), Jane Chan (cello), Ben Dwyer (b), Kai Basanta (ds)
Chorus: Ryan Brower, Felicity Williams, Thom Gill, Ghislain Aucoin, Robin Dann (vo)

【解説】
コロンビアのフォルクローレらしい旋律が随所に溶け込んだメロディに、ポール・ブレイからの影響を強く感じさせる鍵盤もまた独創的なカナダ在住の異才によるカテゴライズ不能な秀作。クラシカルな弦楽器、現代ジャズ的なホーンとリズム隊、教会音楽や聖歌隊に通じる幻想的な女性コーラスなどがハイブリッドに織りなす音世界は、カーラ・ブレイがカンタベリー一派と組んだ諸作を連想させる。(吉本)
【略歴】
コロンビア出身、カナダで育ち現在同国のモントリオールで活動しているシンガー/ピアニスト。主催するバンド”ポエトリー・プロジェクト”は、彼女の父親の詩にインスパイアされた楽曲を演奏している。その作曲法はストラヴィンスキー、セロニアス・モンク、エリカ・バドゥなどに影響を受けたという。



エリーナ・ドゥニ『Dallëndyshe』
ECM Records (2015)

Elina Duni (vo), Colin Vallon (p), Patrice Moret (b), Norbert Pfammatter (ds)

【解説】
オスマン・トルコ支配下だった時期の名残りとギリシャや旧ユーゴなどの周辺国の音楽に通じる要素が独自にブレンドされたアルバニア出身の女性歌手による、ECMからの2作目。プリペアド奏法のピアノなどを多用した前作を経て、愛と亡命に関する歌を中心に取り上げた本作では、流麗さと疾走感をアップ。先の来日公演では東欧の打楽器のニュアンスも応用したドラムの巧さが特に際立っていた。(吉本)
【略歴】
アルバニア出身、現在は幼少期に亡命したスイスで演奏しているシンガー。デビュー時から共に活動するピアニスト、コリン・ヴァロンの提案でジャズにバルカン音楽の要素を加え、オリジナリティの高いサウンドを確立している。レビュー作品のカルテットで現在まで4作アルバムをリリースしている。

 



ナタリア・マテオ『De Profundis』
ACT Music (2017)

Natalia Mateo (vo), Sebastian Gille (sax), Simon Grote (p), Dany Ahmad (g), Christopher Bolte (e-b), Felix Barth (b), Fabian Ristau (ds)

【解説】
パーラト以降のヴォーカル・スタイルを受け継ぐ若手シンガーがベルリンにもいる。退廃的で寂寥感につつまれた音世界をしなやかで優しく、時折節回しにビョークを感じさせる歌声が淡く照らす。ポーランド/ロシア音楽のカバーと母国語詞のオリジナルが醸し出すスラヴ音楽的なメランコリアもこの作品の特色で、空間性を活かした音作りによって現代ジャズ的なサウンドと上手く調和している。(北澤)
【略歴】
現在ドイツ、ベルリンで活動するポーランド出身のシンガー。2013年にデビューし、最新作の『De Profundis』で3作を数える。解説で触れた女性シンガー2人以外にも、ポピュラー音楽ではジョニ・ミッチェルやトム・ウェイツ、ジャズではセオ・ブレックマンなどを慕っている。

※動画は前作『The Windmills Of Your Mind』(2015)

 


今回はレビューができなかったが、上のヴォーカリストの他にお薦めしたいジャズ系シンガーは以下の6名である。
イェウォン・シン / Yeahwon Shin
グウィネス・ハーバート / Gwyneth Herbert
サーナ・アレクサ / Thana Alexa
エスペランサ・スポルディング / Esperanza Spalding
ローレン・デスバーグ / Lauren Desberg
マリア・ネッカム / Maria Neckam

またジャズシーンで活動しているわけではないが、ジャズの要素を含んだ若手シンガーとして次の6人も見逃せない。
コールド・スペックス / Cold Specks
ジェネヴィエーヴ・アルタディ / Genevieve Artadi
スサンナ・ヴァルムルー / Susanna Wallumrød
タチアナ・パーハ / Tatiana Parra
ネイ・パーム / Nai Palm
ローラ・ムヴューラ / Laura Mvula