グレッチェン・パーラトは1976年アメリカ・カリフォルニア出身、主にニューヨークで活動するジャズ・シンガーソング・ライター。
バイオグラフィー
デビューまで
1976年2月11日、カリフォルニア州ロサンゼルスで音楽一家に生まれる。父親はフランク・ザッパのバンドに在籍したベースプレイヤー、祖父は有名ビッグバンドに在籍するトランペッターだった。幼少の頃から歌を始め、当初はミュージカルやポップミュージックのシンガーの歌い方を模倣していた。
高校はロサンゼルス郡芸術高校に進学し、その頃ジャズ・ヴォーカルに興味を持つ。マイルス・デイヴィスの”So What?”やスタン・ゲッツの”Desafinado”を、楽曲テーマだけでなくアドリブ・パートも歌うような練習をしていた。17歳からジャズ・ヴォーカリストのティアニー・サットンに個人レッスンを申し込み、公私にわたって慕うようになる。
また、ブラジル人ピアニスト、ギリェルミ・ヴェルゲイロを父に持つ友人が、色々なブラジル音楽を演奏してくれたことでブラジル音楽への興味・理解が深まっていく。
大学はカリフォルニア大学に進学。音楽民族学を専攻し、3年目からはジャズスタディーズを専攻した。
最も影響を受けた授業としては、高校時代の西アフリカのパーカッション・アンサンブル、大学時代のガーナの音楽とダンスの授業をあげている。
2001年、サットンの推薦で南カリフォルニア大学セロニアス・モンク・インスティチュートに初のヴォーカリストとしての参加が認められる。トランペッターのテレンス・ブランチャードに2年間師事し、同輩のリオネル・ルエケともミュージシャンとして信頼関係を築く。
師事歴 | |||
---|---|---|---|
時期 | 学校・機関 | 教育家 | 主な内容 |
10代後半 | ロサンゼルス郡芸術高校 | Pat Bass他(10.2012,JazzTimes) | イヤー・トレーニング、音楽理論 |
Leon Mobley(10.2012,JazzTimes) | 西アフリカ・パーカッション・アンサンブル | ||
プライベートレッスン | ティアニー・サットン | ジャズ・ヴォーカル | |
20代前半 | カリフォルニア大学 | ケニー・バレル | 音楽民族学、ワールドミュージックの理論、ジャズスタディーズ |
ビリー・ヒギンス | |||
Kobla Ledzekpo | |||
Gerald Wilson | |||
Barbara Morrison(2007,Jazziz / 10.2012,JazzTimes) | |||
Lobla Ladzekpo(10.2012,JazzTimes) | ガーナの音楽とダンス | ||
20代半ば | モンク・インスティチュート | カーメン・ブラッドフォード | ジャズ・ヴォーカル? |
カーメン・ランディ(2015,Mikiki) | |||
テレンス・ブランチャード(主要講師) | 不明 | ||
ハービー・ハンコック | |||
ウェイン・ショーター | |||
不明 | マスタークラス | ボビー・マクファーリン(10.2012,JazzTimes) | 不明 |
ニューヨークでの活動
2003年、ニューヨークに拠点を移す。当初はリオネル・ルエケとのヴォーカル=ギターデュオで活動をしていた。
2004年12月、恩師であるテレンス・ブランチャードの作品『Flow』に参加したことで、その後ライブやアルバムで共演することになるアーロン・パークスやデリック・ホッジと知り合う(ケンドリック・スコットとはそれ以前にお互い知っていた)。
2004年、セロニアス・モンク・コンペティションのジャズヴォーカル部門で優勝。そこで得た賞金を使い、2005年にファースト・アルバム『Gretchen Parlato』をセルフリリース。
2008年、ObliqSoundレーベルと契約。同レーベルで2009年に『In a Dream』、2011年にロバート・グラスパーを副プロデューサーに迎え、これまで以上に自作曲/自作詩を収録した『The Lost and Found』、2013年に初のライヴアルバム『Live in NYC』をリリースする。
- 夫はドラマーのマーク・ジュリアナである。
- 2010年からパーラト、レベッカ・マーティン、ベッカ・スティーヴンスによる3ヴォーカル・ユニット、ティレリーとしても活動している。
作品
リーダー作
2005 – Gretchen Parlato
2009 – In A Dream
2011 – The Lost And Found
2013 – Live In NYC
コラボレーション
ティレリー(w.レベッカ・マーティン、ベッカ・スティーヴンス)
2016 – Tillery
発言
音楽観
あなたの特色のある静かな声(sound)は誰に影響されたのかと聞かれて(10.2012,JazzTimes)
少し前、ボビー・マクファーリンのマスタークラスを受けたとき、「自分は話すように歌っている」と言われました。これはとても気付かされた瞬間でした。私たちシンガーは皆それぞれ特有の包み隠さないヴォーカル・サウンドを持っています。感動したり強い想いに駆られることによって生まれた表現(Underneath anything affected or forced)は、とても純粋でシンプルで、また本当に感情的に深く(アーティストの出す)音とつながっています。ある時点では私たちは他の誰かのように歌うのを止めるべきなのかもしれません。そして自分自身のハートやソウルのみで歌い、私たちが話しているように歌うべきなのかもしれません。
自分自身の声についてこの気付きを得るまで、私はミュージカルのように歌っていました。お気に入りの特色を持つシンガーを真似したり、(レコードで)一緒に歌ったり、(サウンド・オブ・ミュージックなどで主演の)ジュリー・アンドリュースの真似をしていました。彼女は本当に憧れている人!聖歌隊ではどうやってトーンをまっすぐに出すかを学びながら歌いましたが、それはややオペラのような歌い方でした。また好きなポップミュージックの曲を歌い上げ、出来る限りリードシンガーのような声(sound)を出そうと努めながら私は育ちました。その後、ボビー・マクファーリンやジョアン・ジルベルトのようなシンガーを聴いて、彼らの親密で遥かに繊細なアプローチに涙を流し鳥肌が立ちました。私は頭のなかの自分にこう尋ねたくなりました。「あなたにこれができる?」と。彼らの歌と感情を表現するためのアプローチは本当に私の中心に響きました。これこそがアートの美しさなのだと思いました。身体的、あるいは感情的なリアクションを行うことができる能力のことです。
彼らを聴いて自分自身のやり方でジャズを歌うようになって以来、「ジャズ」シンガーがどんな風に歌わなければいけないのかという先入観を捨てなければいけないと気付きました。ただ「自分」らしく歌いなさい、自分自身のストーリーを伝えるために、自分自身の自然な声を使って、そして他の誰かを真似ようとすることをやめなさい、と。もしあるシンガーが自然に大きく反響する声を持っていれば、それは素晴らしいことです。また、むしろその声が控えめで繊細であるならば、それもまた素晴らしいことです。
(”I think the next step is…Donny Hathaway and Kim Burrell, etc”.未翻訳)
- シンガーとインストゥルメンタリスト(楽器奏者)はお互いに学びあい、インスパイアしあう必要があり、両者が共演する上で間に大きなギャップがあってはならないと述べている。(要約。2007,Jazziz:”I feel that singers learn…inspired them in some way”.)
影響源
- アストラッド・ジルベルト(2013,Seven Days)、マイルス・デイヴィスが主要な影響源。他にはビリー・ホリデイ(2011,All About Jazz)、エラ・フィッツジェラド、サラ・ヴォーン、ナンシー・ウィルソン、ボビー・マクファリーン、ジョアン・ジルベルト、チェット・ベイカー、チャーリー・パーカー、ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーターの名前を挙げている(2007,Jazziz)。
- インスパイアされるソングライター、作詞家はベッカ・スティーヴンス、レベッカ・マーティン、アラン・ハンプトンのような音楽的な仲間たちや、ボブ・ディラン、ジョニ・ミッチェルのようなクラシックス(2011,All About Jazz)。
- クオリティ、トーン、ビブラートという点でスティーヴィー・ワンダー、ダニー・ハサウェイ、キム・バレルなどから影響を受けている(10.2012,JazzTimes)。
- ジャズ・インストゥルメンタルを研究する時は、ソロやフレージングを学び、情緒的な空間の使い方やそれぞれの音の意図を理解することに焦点を当てている(10.2012,JazzTimes)。
出典
(2007) Jazzit by Marta Raviglia
(2011) All About Jazz by Ian Patterson
(2012) Jazz Times by Roseanna Vitro
(2015) Mikiki by 柳樂光隆