ファビアン・アルマザン / Fabian Almazan

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ファビアン・アルマザンはキューバ生まれ、アメリカ在住のピアニスト、ジャズ/映画音楽作曲家、レーベルオーナー。主にピアノトリオに弦楽四重奏とヴォーカリストを加えたジャズアンサンブル・グループ『リゾーム』を率いて活動している。テレンス・ブランチャード・グループやマーク・ジュリアナ・カルテットなどサイドマンとしても有名。

ファビアン・アルマザン 来日インタビュー|話題作『Alcanza』のバックボーンに迫る

バイオグラフィー

デビューまで

1984年4月16日キューバのハバナ生まれ。幼少よりクラシックピアノのレッスンを受けるが、10歳の時キューバから両親とともに亡命し、メキシコ経由でアメリカのフロリダ州マイアミに移住する。アメリカではトレーラーハウス住まいでピアノを習う金銭的余裕が無くなってしまうが、地元のピアニストに実力を認められ、3年間無料でレッスンを受ける機会を得る。その後マイアミの芸術高校の試験を通過し、1998年から2002年まで在籍する。高校では同級生の影響でジャズの演奏を始める。

その後2003年、カリフォルニアのブルーベック・インスティチュートに選出され、デイヴ・ブルーベックやクリスチャン・マクブライドと共演。さらに同年、ニューヨークに移りマンハッタン音楽院でケニー・バロンに師事し、デュオ演奏を通してジャズピアノを学ぶ。またそこではオーケストレーションも専攻し、オーケストラや室内楽団のための作品を制作する(ファーストアルバムに収録されている”Personalities”はそのときのもの)。

師事歴
時期 場所 名前 主な内容
10代前半 プライベートレッスン Conchita Betancourt ピアノレッスン
10代後半 ニューワールド芸術高校
(New World School of the Arts)
不明 不明
10代後半 ブルーベック・インスティチュート マーク・レヴィン 不明
20代前半

(03~09)

マンハッタン音楽院 ケニー・バロン

ゲイリー・ダイヤル

ジャズピアノ
Giampaolo Bracali 管弦楽法
25歳 プライベートレッスン ジェイソン・モラン 不明
27歳~ サンダンス・インスティテュート
作曲家研究室
the Sundance Institute
Composers’ Lab
George S. Clinton 映画音楽
Peter Golub
Harry Gregson-Williams
Ed Shearmur
Alan Silvestri
Christopher Young

デビュー以降

2007年、アンブローズ・アキンムシーレの推薦でテレンス・ブランチャードのグループに抜擢される。2010年9月にはマンハッタン音楽院の同級生であるベースのリンダ・オー、ドラムのヘンリー・コールとともに初リーダー作『Personalities』を録音。

自身のアルバムは現在3作品発表している。第1作の『Personalities』はピアノトリオ編成を基調に、トリオ+弦楽四重奏によるチェンバージャズ的な作品、ジョニー・グリーンウッド的なポスト・プロダクションを加えた作品など様々な楽曲が並んでいる。第2作『Rhizome』はアルバム全体がピアノトリオ+弦楽四重奏という編成で、よりトータルアルバム的な音楽を展開。第三作『Alcanza』は全編オリジナルで構成され、前作の音楽性をさらに発展させた内容になっている。

  • バイオフィリア・レコード/Biophilia Recordsという自主レーベルを2011年に設立し、2017年から積極的にリリースをしている。フィジカル作品には環境への負荷を考慮して、折り紙をモチーフにしたアートワークに、CDやLPではなくダウンロードコードを納付するというユニークな取り組みをしている。またレーベル・メンバーによって自然保護活動や音楽を聴く余裕のない学生のための演奏など、ボランティア活動も積極的に行っている(日本語字幕付き参考動画)。
  • 妻はお互いのアルバム/バンドにも参加しているベーシスト、リンダ・オー。

作品

リーダー作

2011 – Personalities
2014 – Rhizome (ArtistShareの販売ページはこちら)
2017 – Realm of Possibilities / SWR New Jazz Meeting 2015
2017 – Alcanza

サイドマン作品を見る

発言

音楽観

『Rhizome』の制作動機

FA: このアルバムでの目的は2つあって、ひとつは自分自身が考える理想的な形で弦楽カルテットを取り入れたジャズ作品をこれまでに聴いたことがなかったので、それを自分の手で作りたかったということ。典型的なジャズの楽器編成では表現できなかった感情などを、今回の編成で表現したかったんです。もうひとつは、世界情勢が不安定でいろんな悲劇が起こっている中で、アーティストとして何らかの助けになり、人々をひとつに繋いで平和をもたらすような作品にしたかった。なので、ジャケットには知り合いの音楽家たちや作品の趣旨に賛同してくれた600人ほどの人々の顔写真を使っています。

Q:『Rhizome』のストリングスの取り入れ方はとても有機的で、コンポジションとインプロヴィゼーションの共存の仕方も独特の高揚感を放っています。

FA: おっしゃる通りで、弦楽器をサポート的な役割で使うのではなくて、バンドの一部として機能させたかったんです。ちなみに7曲目の”Stormy Weather”のアレンジでは、日本の武満徹に触発された面も出ています。
(2015. 4, Latina)

  • 両手で独立したラインを弾くのはバッハのようなバロック音楽よりも、オーケストラ音楽の影響。「シンフォニーの世界ではファゴットやフレンチ・ホルン、トロンボーンやチェロなども、叙情的にメロディーを伝える点ではその役割はヴァイオリンと変わらない。だから(左手でメロディーを弾いているのは)、ピアノでもオーケストラに匹敵する表現ができるようにするためだ」(2016, Mikiki)

影響源

  • ケニー・バロンからは「音の鮮明さと強い信念を追求すること」、ジェイソン・モランからは「リスクを負ってチャレンジすること」を教えられた。(2016, Mikiki)
  • 影響されたクラシック作曲家はラヴェル、ブラームス、ストラヴィンスキー、武満徹「武満さんは、オーケストラの演奏をひとつの脈動として捉えているというか、ただ単に音符を連ねているだけではない、脈打つような力強い動きが底に流れていると感じる。その点で僕は、武満さんから影響を受けました。」(2015, Mikiki)
  • 『Rhizome』でインスピレーションを受けた作曲家はラヴェル、ストラヴィンスキー、ジョニ・ミッチェル、シルビオ・ロドリゲス。アコースティック・ギターを引く音楽家全般。(4.2015, Latina)
  • (共演したい人はと聞かれて)モーリス・ラヴェル、エロール・ガードナー、ジョニー・グリーンウッド、ケアレスワン、セイント・ヴィンセント、映像作家(Alastair Fothergill, Anthony Geffen, Jason Roberts and Mark Duplass)(MUSEUM)

ジョニー・グリーンウッドについて
「僕がジョニー・グリーンウッドにインスパイアされるのは、一つのカテゴリーに縛られることのない、逞しい勇気を持ったアーティストだから。彼はロック・ミュージシャンでもあるけど、映画のスコアも手掛けているし、オーケストラやエレクトロニック・ミュージックの分野にも精通している。そういうふうに、バリアが一切ない活動姿勢はとても心強く感じている」(2016, Mikiki)

好きな作品

トップ5アルバム
ラヴェル『Piano Concertos; Menuet Antique; Le Tombeau de Couperin; Fanfare』
ジョニー・グリーンウッド『Bodysong』
ダニーロ・ペレス『Motherland』
ジョン・コルトレーン『Live at the Vanguard』
キース・ジャレット『Standards Live』
(2017, Something Else!)

好きなキューバ音楽はヌエバ・トローバの音楽家(特にシルビオ・ロドリゲス、カルロス・ヴァレラ)、アレハンドロ・ガルシア・カトゥーラ、愛を歌ったボレーロ、自然について歌った農村地区の音楽(4.2015, Latina)

好きな音楽家・作品
時期 音楽家・作品 ジャンル
10代① オスカー・ピーターソン
キース・ジャレット
デューク・エリントン
ジョン・コルトレーン
ゴンサロ・ル・バルカバ
マイルス・デイヴィス
ジャズ(Mikiki, 2016)
10代② ダイアナ・クラール『Love Scenes』
ダニーロ・ペレス『Motherland』
ジャズ(Mikiki, 2016)

訳語

英語読みすると「ファビアン・アルマザン」だが、スペイン語圏では”Z”は”S”の発音になるため、出身地を重視するなら「ファビアン・アルマサン」の方が近い。

出典

雑誌

(2015. 4) ラティーナ by 吉本秀純

ウェブサイト

(2012) Jazz Speaks by Vincent Soyez
(2012) Jazz Times by Michael J. West
(2014) MUSEUM
(2014) All About Jazz by DanMichael Reyes
(2015) Mikiki by 渡辺 亨 
(2016) Mikiki by 北澤
(2017) Something Else! by Preston Frazier