メアリー・ハルヴァーソン / Mary Halvorson

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メアリー・ハルヴァーソンはアメリカ在住のギタリスト、作曲家。ギタートリオを中核に1~4人の管楽器を加えた自己のグループの他に、様々なミュージシャンとの連名グループや、ギター/ベース/ドラム・トリオ「サムスクリュー」のメンバーとして、ニューヨークの前衛ジャズシーンで大きな存在感を発揮している。ジャズ以外にもロックや前衛音楽、フォーク音楽から影響を受けた作曲と、モダンジャズ・ギターからノイズ、フリー・インプロヴィゼーションの手法までカバーしたユニークなギター・スタイルが特徴。

バイオグラフィー

デビュー以前

1980年10月16日、マサチューセッツ州のボストンに隣接する街、ブルックラインに生まれる。7歳頃、友達の影響でヴァイオリンを始めるが、13歳頃にジミ・ヘンドリックスに夢中になったことがきっかけで楽器をギターに持ちかえる。

両親のすすめでジャズ・ギタリストに習ったことで、セロニアス・モンク、マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーンのようなジャズ・クラシックを聴き始める。はじめはテーマ以外は退屈だと思っていたが、徐々にジャズに惹かれていく。

高校にもジャズ好きの友人がおり、その中の1人にオーネット・コールマン、チャールス・ミンガス、エリック・ドルフィーが入ったミックステープを貰ったことでより幅広いジャズを聴くようになる。毎年夏には友人たちとニューポート・ジャズ・フェスティバルに車を運転して観に行くというような高校生活を送っていた。

卒業後、コネチカット州ウェズリアン大学に入学。科学者になるために生物学を専攻するが、アンソニー・ブラクストンと出会ったことで1学期で専攻を音楽に変更する。また、大学時代はブラクストンと並行して、ジョー・モリスにもプライベートレッスンを受ける。

師事歴
時期 学校 教育家 内容
6-11歳頃 不明 不明 クラシック・ヴァイオリン
13-18歳頃 プライベートレッスン Issi Rozen ジャズ・ギター、ジャズ・スタンダード
高校時代 バークリー、ニュー・イングランド音楽大学の高校生向けプログラム 不明 不明
プライベートレッスン Diane Wernick アルトサックス
大学時代 ウェズリアン大学 アンソニー・ブラクストン レクチャー、アンサンブル
(テーマの一例としてサン・ラ、シュトックハウゼン)
ジョー・モリス アンサンブル、ギター
ニュースクール大学 ジェーン・アイラ・ブルーム オーネット・コールマン・アンサンブル

デビュー後

デビュー後すぐの00年代は、他のミュージシャンとのコラボレーションを中心に活動していた。2005年からヴィオラ奏者ジェシカ・パヴォーンとのアルバムを5作(『Calling All Portraits』のみカルテット編成)、2008年からウィーゼル・ウォルター(ds)とピーター・エヴァンズ(tp)とのアルバムを4作リリースしている(『Opulence』のみウォルターとのデュオ編成)。

2008年にはジョン・エイベア(b)、チェス・スミス(ds)とのギター・トリオで、単独リーダーとして初のアルバム『Dragon’s Head』を発表。その後、このトリオに徐々に演奏家を加えていき、5人編成の『Saturn Sings』『Bending Bridges』、7人編成の『Illusionary Sea』、8人編成の『Away With You』を発表。追加メンバーにはジョナサン・フィンレイソン(tp)、ジョン・イラバゴン、イングリッド・ラブロック(sax)、ジェイコブ・ガーチク(tb)、スーザン・アルコーン(pedal steel guitar)がいる。

また、上記のメンバーを一新したギター/サックス・カルテット『Reverse Blue』や学生時代から好きだったジャズ・ミュージシャンの楽曲をカバーしたソロ・ギター作品『Meltframe』を発表し、幅広い音楽性を見せる。2014年にはマイケル・フォーマネク(b)、トマス・フジワラ(ds)と結成したギター・トリオ「サムスクリュー」の初作品を発表、現在まで4作品リリースしている。

2018年にはアミーサ・キダンビ(vo)、アンブロース・アキンムシーレ(tp)を迎えた初のヴォーカル作品『Code Girl』を発表し、新しい側面を切り開いている。

  • サイドマンとしてはアンソニー・ブラクストン、マーク・リボー、テイラー・ホ・バイナム、トマス・フジワラ、イングリッド・ラブロック、ジェイソン・モラン、ジョー・モリス、トム・レイニーなどの作品に参加している。
  • 父親は絵画や詩の創作もたしなむ建築家。ハルヴァーソンの楽曲タイトルのいくつかは彼が提案したもの。また、『Dragon’s Head』、『Saturn Sings』、『Illusionary Sea』のジャケットのイラストも彼が過去に描いたポストカードなどから来ている。

作品

リーダー作

2008 – Dragon’s Head (Firehouse)
2010 – Saturn Sings (Firehouse)
2012 – Bending Bridges (Firehouse)
2013 – Ghost Loop (EMI)
2013 – Illusionary Sea (Firehouse)
2014 – Reverse Blue (Relative Pitch Records)
2015 – Meltframe (Firehouse)
2016 – Away With You (Firehouse)
2018 – Code Girl (Firehouse)

コラボレーション

w. Jessica Pavone
2005 – Prairies (Lucky Kitchen)
2007 – On and Off (Skirl)
2008 – Calling All Portraits (Skycap)
2009 – Thin Air (Thirsty Ear)
2011 – Departure of Reason (Thirsty Ear)

w. Weasel Walter / Peter Evans
2008 – Opulence (UgExplode)
2009 – Mystery Meat (UgExplode)
2011 – Electric Fruit (Thirsty Ear)
2012 – Mechanical Malfunction (Thirsty Ear)

w. Reuben Radding / Nate Wooley
2009 – Crackleknob (Hatology)

w. Stephan Crump “Secret Keeper”
2013 – Super Eight (Intakt)
2015 – Emerge (Intakt)

w. Michael Formanek / Tomas Fujiwara “Thumbscrew Trio”
2014 – Thumbscrew (Cuneiform)
2016 – Convallaria (Cuneiform)
2018 – Ours (Cuneiform)
2018 – Theirs (Cuneiform)

サイドマン作品を見る

発言

音楽観

自分の音楽をどう解釈しているか聞かれて
「あの作品(『Bending Bridges』)に収録したギター・プレイには多方面からの影響が凝縮されているのよ。クインテット自体はジャズからの影響をストレートに受けている。事実として私はアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズからインスピレーションをもらってクインテットを始めたんだもの。それでも、あのサウンドの中には同時にロックや前衛音楽やフォークや、他にも数多くの音楽スタイルの影響が渦巻いているのよ。私は常にいろんなタイプの音楽に興味があるんだけど、曲を書く時にはあえてジャンルのことを考えすぎないようにしてるの。音楽に対してはオープンでナチュラルな感覚を維持したいもの。」

Q: あなたの曲のところどころから出現する、丹念に構築されたハーモニーは美しく感動的です。フリーな感性と確固たる音楽理論との洗練された対比が非常に面白いですね。曲を書く時のあなたは、意図的にああいった対比を描いているのでしょうか?

「そうよ。狙ってるわ。私は美しいメロディとハーモニーを存分に味わいながら曲作りを楽しんでる。そして同時に発想とインプロヴィゼーションの自由も謳歌してる。私は自分が書き上げた曲構成というのはある種の枠組みであるととらえるようにしてるの。だからプレイされるごとに進化していくのが当たり前。自身の表現のための余地が十分に残されているべきだと思う。ザラついた音やダーティな表現があっていいわけだし、サプライズも欲しいわ。」(2014.8, Guitar Magazine)

ギターソロの中のDJがレコードをスクラッチしているようなフレーズはどうやっているのかと聞かれて
「たぶんあなたが指してるのは私のピッチ・ベンディングの手法だと思うわ。あれはLine6のディレイ・ペダルを使って得てるの。それをエクスプレッション(フット)ペダルでコントロールしてるから、私はハンズフリー状態。リング・モジュレーターやピッチ・シフターやワミー・ペダルを使っていると憶測する人が多いみたいだけど、実はディレイ・ペダルだけなの。」(2014.8, Guitar Magazine)

好きな音楽

好きな音楽
時期 ジャンル 音楽家・作品 出典
中学時代 ロック ジミ・ヘンドリックス、ビートルズ、オールマン・ブラザーズビーチ・ボーイズ、スマッシング・パンプキンズ 2008, The New York Times

2015, Point of Departure

ジャズ セロニアス・モンク、マイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、ウェス・モンゴメリー
高校時代 オーネット・コールマン、チャールズ・ミンガス、エリック・ドルフィー、アート・アンサンブル・オブ・シカゴ、デレク・ベイリー/アンソニー・ブラクストン『Live at Victoriaville』
大学時代 ジョン・ゾーン、ティム・バーン、ネルス・クライン、エリオット・シャープ、マーク・リボー 2013, Textura
不明 ロック スティーリー・ダン 2008, Glows in the Dark
  • 好きなデュオギター・アルバムはネルス・クライン/ジュリアン・ラージの『Room』(2015, Point of Departure)
  • 好きな映画は近年のデヴィッド・リンチ(特に『Wild at Heart』)。好きな小説/本は村上春樹、ジョルジュ・シムノン(特にInspector Maigret Series)、占星術の本。(2008, Glows in the Dark)

影響源

  • 人生を変えたアルバムは以下の通り。5歳の時に手に入れたビーチ・ボーイズのカセットテープ。ジミ・ヘンドリックスのアルバム全て。生まれて初めて買ったジャズ・アルバムであるマイルズ・デイヴィス『Kind of Blue』、ジョン・コルトレーン『Blue Train』、セロニアス・モンクのコンピレーションアルバム。ウェイン・ショーター『The Soothsayer』。より最近だとユセフ・ラティーフ『Live at Pep’s』、エタ・ジェイムズのボックスセット、サム・クック&ソウル・スターラーズ、ロバート・ワイアット『Rock Bottom』。(2008, Glows in the Dark)
  • ギタリストよりもエリック・ドルフィーやジョン・コルトレーン、マイルズ・デイヴィス、アンソニー・ブラクストン、ティム・バーンのような管楽器奏者に影響を受けている。(2009, NPR / 2013, Textura)
  • ギタリストではデレク・ベイリー、ソニー・シャーロック(2015, Point of Departure)、マーク・リボー、ジョー・モリス、ビル・オーカット(Bill Orcutt)、同時代人ではブランドン・シーブルックの『Sylphid Vitalizers』(2014, Jazz Times)。トラディショナルなスタイルならレニー・ブロー、ジム・ホール、ジョニー・スミス(2014, Guitar Magazine)。
  • 2018年のWIREのインタビューではヴォーカリストを迎えたバンド「コード・ガール」の影響源としてロバート・ワイアット “Sea Song”、エリオット・スミス “New Disaster”、サム・クック “Any Day Now”、ジョニ・ミッチェル “Roses Blue”など10曲を挙げている。
  • 音楽家を志す上で影響を受けた女性ミュージシャンは、ギタリストのエミリー・レムラー、高校時代のサックスの先生、ニュースクール大学の講師ジェーン・アイラ・ブルームの3人。(2015, Point of Departure)

出典

雑誌

(2014.8) Guitar Magazine

ウェブサイト

(2009) NPR
(2008) Glows in the Dark
(2013) Textura
(2014) Jazz Times by Nate Chinen
(2015) Point of Departure by Troy Collins
(2016) Jazz Speaks by Hannah Judd
(2018) Wire

おすすめ作品