デリック・ホッジ/Derrick Hodgeはアメリカ在住のベーシスト、マルチ・インストゥルメンタリスト、作曲家、プロデューサー。ベーシストとしてはロバート・グラスパー、テレンス・ブランチャードのようなジャズ・ミュージシャンから、コモン、マックスウェルなどのR&B/ヒップホップ系ミュージシャンまで幅広く起用されている。リーダー作では作曲性とセッション性を両立させた作品や一人多重録音作品など、作曲家/プロデューサー志向の強い創作をしている。
目次
バイオグラフィー
生い立ち
1979年7月5日、ペンシルベニア州フィラデルフィア生まれ。母親はゴスペルシンガー。ラジオがきっかけで音楽を聴き始め、幼い頃からジャズ、ゴスペル、ヒップホップ、R&B、ロック、フォーク・ミュージックなどに親しむ。地元の教会で出会ったベーシストの演奏に憧れてエレクトリック・ベースを始める*1*2。
小学校に入ると、地元の教会でゴスペルを、学校のオーケストラでクラシックを演奏(小学校にはアップライトベースがなく、エレクトリック・ベースで代用していたという)。中学に進学するとアップライト・ベースを手に入れ、高校ではクラシックを学びながらユース・オーケストラで演奏する。また、在学中にキーボーディスト、ジェイムズ・ポイザーをはじめフィラデルフィアのミュージシャンと仕事をするようになる*3。
その後、エレクトリック・ベースのスカラーシップを受けてテンプル大学に進学。クリスチャン・マクブライドなどに師事し、ジャズ、ソウル、ヒップホップ、R&Bを学ぶ。大学ではミュージック・ソウルチャイルド、フロエトリー、ジル・スコットなどR&Bアーティストとも共演する。
師事歴 | |||
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時期 | 学校・機関 | 教育家 | 主な内容 |
高校時代 | 不明 | 不明 | クラシック音楽 |
10代後半-20代前半
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テンプル大学
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John Hood、Vince Fay |
アップライト・ベース
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クリスチャン・マクブライド | ベース | ||
ジョン・クレイトン、Loren Schoenberg, Terell Stafford, Ed Flannagan, Ben Schachter | 不明 | ||
20代半ば | サンダンス・コンポーザーズ・ラボ | 不明 | 映画音楽 |
デビュー以降
卒業後、地元のテナー奏者ブーツィー・バーンズに起用されたことでジャズ・ミュージシャンとしてのキャリアをスタート。2002年にはマルグリュー・ミラー・トリオに、2005年にはテレンス・ブランチャード・グループに参加し、ベーシストとして名を馳せていく。また、ブランチャードの紹介でクラシック音楽や映画音楽を制作する機会を得たことで、これまで以上に音楽性を広げる。
ジャズシーンでの活躍と並行して、R&B/ヒップホップ系のアーティストのアルバムにも起用される。2002年には学生時代から関わりのあったミュージック・ソウルチャイルド、フロエトリー、2005年にはコモン、2008年にはQティップのアルバムでレコーディング。2009年にはマックスウェルの8年ぶりの作品『BLACKsummers’night』の音楽監督を務め話題になる。
00年代半ば、ホッジがベーシストを務めるマルグリュー・ミラーのライヴに来ていたことがきっかけでロバート・グラスパーと知り合う。その後ロバート・グラスパー・エクスペリメントに参加し、2013年には同バンドの『Black Radio』がグラミー賞ベストR&Bアルバムに輝く。同年、デビュー作『Live Today』を発表。テーマ-ソロ-テーマという枠組みを排し、R&Bやアフリカ音楽、フォーク・ミュージックなど様々な作風の楽曲を、ジャズ・ミュージシャンが空間的・即興的に彩るコンセプトは話題を呼んだ。2016年にはオーバーダブを駆使し、キーボード、ドラム、ヴォーカルに至るまでほぼ全て1人で制作した『The Second』をリリース。作曲家、演奏家、プロデューサーとして新たな一面を切り開く。
2011年から映画音楽を制作しやすいロサンゼルスに住んでいる(2013, All About Jazz)。
作品
リーダー作
リリース年 | タイトル | レーベル | レビュー |
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2013 | Live Today | Blue Note | 佐藤 |
2016 | The Second | Blue Note |
コラボレーション
リリース年 | 名義 | タイトル | レーベル | レビュー |
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2017 | Blue Note All-Stars | Our Point of View | Blue Note | 北澤 |
2018 | R+R=NOW | Collagically Speaking | Blue Note | 佐藤・高橋 |
発言
音楽観
『Live Today』について
ソロ・アルバムを作るしかないと感じたんだ。僕がこれまでにお世話になったひとりひとりをフィーチャーしたくてね。そして、これまでに起きた大事な瞬間をスクラップ・ブックのように記録してみたかった。だからこのアルバムは文字通り、僕のパーソナルなアルバムなんだよ。(2013.10, Bass Magazine)
クラシックとジャズについて
クラシックの、特にロマン派の音楽は現代の西洋音楽に非常に大きな影響を与えているよね。ジャズは表現が自由で、クラシックを自由でないと言う人がいるけれど、僕はそう思わない。クラシックでも、例えばロマン派は自由な表現法があると思う。ジャズはアメリカの自由の象徴だけど、そのルーツはいわゆる西洋音楽であって、その土台はクラシックにある。(略)ジャズはジャンルではなく、表現の自由という意味だと思う。ひとりひとりがどう感じるかを音楽に反映させることなんだ。(2013.10, Bass Magazine)
好きな音楽
好きな音楽家・作品 | |||
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時期 | ジャンル | 音楽家・作品 | 出典 |
子供時代
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ジャズ | “Nancy Wilson and Cannonball Adderley”, The Isley Brothers, Kirk Franklin, Marcus Miller |
2012, Back Beat Magazine / 2017, The Anderson Street Project
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R&B | Donny Hathaway “Someday We’ll All Be Free”, New Edition “Can You Stand the Rain” | ||
ゴスペル | 不明 | ||
不明 | ダンスミュージック | Skrillex |
2012, Back Beat Magazine
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影響源
マーカス・ミラー、クリスチャン・マクブライドについて
「エレクトリック・ベースだと最も大きな影響を受けているのはマーカス・ミラーから。全体的なサウンド作りは彼のベースから学んでいったように思う。彼はテクニックの面でも学ぶところが多いけど、僕は彼のメロディックな感覚が大好きなんだ。アコースティック・ベースではクリスチャン・マクブライドだ。才能、サウンド、革新性、先進性、どれを取ってもずば抜けている。彼以降のベーシストで彼の影響を受けずにいるということはできないんじゃないかな」(2014.3, Jazz Life)
ジャコ・パストリアスについて
(『Live Today』の冒頭の曲”The Real”にジャコの影響が見られると聞かれて)「そうだよ。子供の頃、彼ばかり聴いていた時期があったからね。何を隠そう、彼のアルバム、ビデオ、そしてブートレッグをコレクションしていて、映像をくりかえし観て彼のフィンガリングを研究した。それから彼を完コピして、彼のスタイルもマネした。完全に取り憑かれていたよ」(2013.10, Bass Magazine)
- Bass Magazine (2013.10)では上述のベーシストに加え、ジェイムズ・ジェマーソン、エドガー・マイヤー、ロン・カーター、レイ・ブラウン、ポール・マッカートニー、イエロージャケッツのジミー・ハスリップを挙げている。
- Bass Musician Magazine (2013)では上述のベーシストに加え、Victor Wooten, Gary Willis, Joel Ruffin, Jethaniel Nixon, Reggie Parker, Kevin Arthur, Flea, John Clayton, Vince Fay, Mike Boone, Sam Jones, Israel Crosby, Paul Chambers, Andrew Gouche, Jimmy Blanton, Matt Garrison, Hadrien Feraud, Thaddaeus Tribbettを挙げている。
- 影響を受けたジャンルはゴスペル、R&B、ヒップホップ、ロック、クラシック、ジャズ。音楽的な影響では、ラヴェル、ドビュッシー(クラシック)、スティーヴィー・ワンダー、ダニー・ハサウェイ、クインシー・ジョーンズ(R&B/ポップス)、ナンシー・ウィルソン、テレンス・ブランチャード(ジャズ)、ナズ、コモン(ヒップホップ)、ジョニー・ウィリアムズ、ハリー・グレッグソン・ウィリアムズ(映画音楽)。(2013, Bass Musician Magazine)
評価
ロバート・グラスパー
デリック・ホッジは僕のお気に入りのベーシスト。スペースを作り出すのが上手いのがその理由だ。たいていのベーシストは多くの音を出したがるんだけど、僕はベーシストにあまりたくさん音を出し過ぎてほしくないんだ。僕が自由に演奏する妨げになってしまうから。僕がベーシストに求めるのはたくさんの音を出すことではなく、バンドをボトムからしっかり支えてグルーヴさせることだ。デリックは出すべき音をしっかり見極めた上で演奏してくれる。作曲やオーケストレーションの知識も卓越しているし、とても才能溢れるミュージシャンだ。(2012.3, Jazz Life)
ケンドリック・スコット
「僕の人生すべてを預けてもいいと思っているほど、デリックを信頼している。彼は僕のジョセフィンという娘の名付け親でもあるんだ。一緒にテレンスのグループに在籍していたときに友情が深まったんだんだけど、彼はマルグリュー・ミラーからカニエ・ウェスト、コモンまでいろんな人と共演していて、本当に経験値が高い。(略)デリックはオラクルでベースを弾いていたこともあるんだけど、今もメンバーであると言っても過言ではないね」(2016.01, CD Journal)
機材
楽器
CallowhillのMDM5弦、6弦ベース、フェンダー・ジャズの5弦ベース、ステイタスのElectro-4フレットレス・ベース。(2013.10, Bass Magazine)
アンプ
全てアギュラー。DB751, DB410, GA410, GS112, トーンハンマー500。(2013.10, Bass Magazine)
出典
雑誌
(2012.3) Jazz Life by 早田和音
(2013.10) Bass Magazine by 子安フミ
(2014.3) Jazz Life by 早田和音
(2016.01) CD Journal by 佐藤英輔
ウェブサイト
(2013) Bass Musician Magazine by Tim Seisser
(2013) All About Jazz by Danmichael Reyes
(2017) The Anderson Street Project