キャリアを重ねると、ドラムはタイムをプレイするだけの作業ではなくなってくるんだ。そこに存在する音楽をプレイすること……それがドラムの役割だ。(2011.03, Rhythm & Drums Magazine)
ケンドリック・スコット/Kendrick Scottはアメリカ在住のドラマー、作曲家、レーベルオーナー。自身のバンド「オラクル」では、ゴスペルやインディー・ロックに影響を受けた有機的なオリジナル曲を演奏したり、電子音楽のカバーをアコースティック・ジャズのスタイルで提示するなど、伝統と革新のバランスが取れた21世紀の新主流派というべき音楽性を追求している。サイドマンとしても、テレンス・ブランチャードのようなベテランから、グレッチェン・パーラト、マイク・モレノ、カミラ・メサのような同世代・若手まで、世代を問わず起用されている。
目次
バイオグラフィー
生い立ち
1980年テキサス州ヒューストンに生まれる。 教会で働く両親を持ち、母親はゴスペル/クラシックのピアニストだった。そのため幼少期からゴスペルやR&Bを聴きながら育つ。ドラムは6歳頃から家の家具などでリズムを叩いて遊んでいたことがきっかけで始め、8歳の時に最初のドラム・セットを買ってもらう。
ミドルスクールではマーチングバンドに入り、ドラムの基礎、ルーディメントなどを身に付ける。14歳でジャズ・ミュージシャンとして生きていく決意をし、16歳のときに地元の芸術高校ヒューストンPVA高校に入学。クリス・デイヴィスやジャマイア・ウィリアムズなどを輩出したロバート・モーガンに師事し、ロバート・グラスパー、マイク・モレノ、アラン・ハンプトン、ウォルター・スミス3世など後に共演する様々なミュージシャンと出会う。
1998年、スカラーシップを受けバークリー音楽大学に進学。ハル・クルック、ジョー・ロヴァーノに師事し、在学中はジャリール・ショウ、ジェレミー・ペルト、クリスチャン・スコット、山中千尋らと共演する。昼間は音楽教育や児童心理学を学び、夜はヴィセンテ・アーチャーらとギグをするような日々を送っていた。(2013.04, Jazz Life)
デビュー以降
大学4年生の時、地元のパーティーで共演したジョー・サンプルの紹介でクルセイダーズに参加する。また同時期にエリック・ハーランドの推薦でテレンス・ブランチャードのグループにも参加。キャリア開始直後から有名なグループ2つを掛け持ちすることになる。
その後、2007年にファースト・アルバム『The Source』をリリース。ブランチャード・グループのバンドメイト(アーロン・パークス、リオーネル・ルエケ、デリック・ホッジ、グレッチェン・パーラト)や同郷の仲間(ロバート・グラスパー、マイク・モレノ、ウォルター・スミス3世)などが集う、1980年前後生まれ世代を象徴する作品になる。
また、2005年にジョン・エリス、マイク・モレノ、テイラー・エイグスティー、ジョー・サンダーズを率いて「オラクル」グループを結成。サックス+ギター+ピアノトリオという現代的な編成で、ゴスペルやインディー・ロックに影響を受けた有機的なオリジナル曲を演奏したり、電子音楽のカバーをアコースティック・ジャズのスタイルで提示するなど、21世紀の新主流派というべき音楽性を追求している。2013年には『Conviction』(Concord)を、2015年には『We Are the Drum』(Blue Note)を発表。プロデューサーはいずれもデリック・ホッジが務めている。
- 「オラクル」というグループ名は映画「マトリックス」の登場人物から来ている。
- レパートリーはスコットの曲だけでなく、メンバーのオリジナルや、ビョーク(Source)、スフィアン・スティーヴンズ、ブロード・キャスト(『Conviction』)、フライング・ロータス(『We Are the Drum』)のカバーなども演奏している。
作品
リーダー作
2007 – The Source
2009 – Reverence
2013 – Conviction
2015 – We Are the Drum
コラボレーション
2017 – Blue Note All-Stars / Our Point of View
発言
ドラムの役割
「キャリアを重ねると、ドラムはタイムをプレイするだけの作業ではなくなってくるんだ。そこに存在する音楽をプレイすること……それがドラムの役割だ。曲から情報を得て、曲が必要としているものをプレイするってことさ。これまでに培った知識、情報、経験が僕をヘルプしてくれて、その場で僕が何をすべきか教えてくれるし、導いてくれるんだ。」(2011.03, Rhythm & Drums Magazine)
オラクルの編成、メンバーについて
「基本的にハーモニーが好きなんです。母がピアニストということもあって、子供の頃からコード楽器に惹かれました。ピアノとギター双方のミュージシャンに自由な幅を与えられると思っているので、このふたつの楽器は必ず入れています。ギターに関しては蝶のイメージ。ふわふわと飛びながら透明感があって力強い。ピアノは白鳥のイメージで、そのままじっとしていても美しいし、動き回って作用を引き起こすこともできます。このふたつのハーモニーが溶け合うと、本当に素晴らしいものが生まれるのです。自分にとっての重要な楽器です。
実はぼくはテナー・サックス奏者になりたかったんですよ。ジョン・コルトレーンの大ファンなんです。バス・クラリネットも好きだから、創造的な音響空間を作ることができるジョン・エリスは完璧な適役。ジョー・サンダースはどっしりと構えているミュージシャンで、ベースの役割を自由自在に変えることができる。
そのようなミュージシャンがいるからこそ、自分のドラムスも自由に変化させ、いろいろな役割を果たせると思います。この編成にしている理由は、クインテットだけではなく、デュオやトリオなど多様な音楽空間を築くことができるからです」(2013.04, Jazz Life)
- 作曲は自ら歌いながらやっている。また、ドラム・プレイにも「歌」の要素を入れることを意識している。(2013.04, Jazz Life)
好きな音楽
好きな音楽 | |||
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時期 | ジャンル | 音楽家・作品 | 出典 |
2013年時点のフェイヴァリット・レコード | ジャズ | Ahmad Jamal 『Ahmad’s Blues』、Canonball Addreley 『Nippon Soul』、Clifford Brown and Max Roachの全て、Herbie Hancock 『Sunlight』、Joe Henderson 『Tetragon』、John Coltrane 『A Love Supreme』、Miles Davisの全て、Sarah Vaughan 『Swingin’ Easy』、Wayne Shorter 『Speak No Evil』 | (2013) Kendrick Scott FAQ |
ブラック・ミュージック | Nina Simone 『In Concert』、Bob Marleyの全て、Donny Hathaway 『Extension Of A Man』、The Metersの全て、Stevie Wonder 『Fulfillingness’ First Finale』、Fela Kuti 『Fela’s London Scene』、Michael Jackson 『Off The Wall』、MeShell Ndegeocello 『Bitter』 | ||
ヒップホップ | De La Soul 『Three Feet and Rising』、Eric B and Rakim 『Paid In Full』、J Dilla 『Donuts』、Nas 『Illmatic』 | ||
クラシック | Debussyの全て、Hindemith 『Mathis De Mahler』、Igor Stravinsky 『Rite Of Spring』 | ||
ロック | Jimmy Hendrix 『Are You Experienced?』、Led Zeppelin I-IV』 | ||
ブラジル音楽 | Milton Nascimento 『Courage』 | ||
エレクトロニカ | Bjork 『Homogenic』 |
影響源
ハービー・ハンコックについて
「メロディが異なる意味を持ちながら開放的な結末へと向かうハービーの旋律書法に、ぼくはずっと影響を受けてきました。ハーモニーにおける勢いの良さや、メロディがどこで始まってもいい自由さが、ハービーの楽曲の魅力です。」(2013.04, Jazz Life)
- 最初に影響を受けたのはクリス・デイヴ。エリック・ハーランド、マルコム・ピンソン、マーク・シモンズなど、地元のドラマー。(2011.03, Rhythm & Drums Magazine)
- ジャズドラマーのクラシックの中ではトニー・アレン、ロイ・ヘインズ、ジャック・デジョネット、トニー・ウィリアムス、ブライアン・ブレイドに影響を受ける。「ブライアンに関しては、彼の人間性に凄く感銘を受けたね。素晴らしい人柄が音楽からも伝わってくるよ」(2011.03, Rhythm & Drums Magazine)
- 上記のドラマーに加えて、ジェームス・ギャドソン、アート・ブレイキーらも自分のファンデーション(土台)にあげている。(2011.03, Rhythm & Drums Magazine)
他のミュージシャンについて
デリック・ホッジについて
「僕の人生すべてを預けてもいいと思っているほど、デリックを信頼している。彼は僕のジョセフィンという娘の名付け親でもあるんだ。一緒にテレンスのグループに在籍していたときに友情が深まったんだんだけど、彼はマルグリュー・ミラーからカニエ・ウェスト、コモンまでいろんな人と共演していて、本当に経験値が高い。(略)デリックはオラクルでベースを弾いていたこともあるんだけど、今もメンバーであると言っても過言ではないね」(2016.01, CD Journal
出典
雑誌
(2013.04) Jazz Life by 奥沢涼
(2011.03) Rhythm & Drums Magazine
(2016.01) CD Journal by 佐藤英輔
ウェブサイト
(2013) Kendrick Scott FAQ