まず自分の才能を信じること。そして、自分のやっていることが正しいのか、間違っているのかの判断を他人に委ねない。
ベン・モンダーは1962年アメリカ、ニューヨーク州生まれのギタリスト、作曲家。1997年にギタートリオ作品『Flux』でデビュー。ヴォイスを加えた3作品『Excavation』(2000)、『Oceana』(2005)、『Hydra』(2013)では、ジャズやロックに加えて近現代クラシック音楽のアイディアをふんだんに取り入れ、非常に作曲性の高い音楽を展開している。一方でECM作品『Amorphae』(2015)のようにフリー・インプロヴィゼーション的な表現も得意とする。
共作も数多く存在し、これまでにテオ・ブレックマン(vo)やビル・マクヘンリー(sax)、クリスチャン・ランダル(p)らと録音している。
目次
バイオグラフィー
デビューまで
1962年5月24日ニューヨーク、ウェストチェスター生まれ。父親は科学者で、ヴァイオリンもたしなむ熱心なクラシック・ファンだった。モンダーも9歳からヴァイオリンを始め、12歳の時にギターに切り替える。14歳から高校時代までジャズギタリストに師事しギターを学ぶ。高校卒業後、師事していたギタリストが教鞭をとるウェストチェスター音楽学校に2年間在籍。その後マイアミ大学、クイーンズ大学を渡り歩く。
1984年頃からニューヨークで活動を開始。下積み時代はキーボード奏者のボブ・ボールドウィンらとR&Bバンドを組んだり、ジャック・マクダフのバンドに半年間在籍していた。
その頃は自分のギタースタイルを模索している時期だった。そして1つだけ言えることは、私はジャックのバンドのギタリストとしては相応しくなかったということだね(笑)。ジャックも私のことをあまり気に入ってなかったようだった。(Jazz Guitar Book 7)
1987年からはニューヨーク・アップタウンのオーギーズに週に2回出演。トリオでスタンダードを演奏し腕を磨いていく(Jazz Guitar Book 29)。
師事歴 | |||
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時期 | 学校・機関 | 教育家 | 主な内容 |
14歳 | 個人レッスン | ジョン・ストーウェル | ジャズギター |
16-17歳 | チャック・ウェイン | ||
10代後半 | ウェストチェスター音楽学校 | チャックウェイン他 | 不明 |
20代前半 | マイアミ大学 | Landallo Dollahon | リハーモナイゼーション、ソロ・ギター・アレンジメント |
クイーンズ大学 | 不明 | クラシックの作曲、理論 |
90年代
1991年にマーク・ジョンソンのベース・デザイアーズに参加。同年の『Right Brain Patrol』で初のレコーディングを行う。また、1992年にはマリア・シュナイダー・オーケストラに参加。彼女のオーケストラには00年代後半まで15年間ほどレギュラー・ギタリストとして在籍し、オーケストラのサウンドに欠かせない存在となる。
1995年頃、ヴォーカリストのテオ・ブレックマンとデュオで活動を開始。ブレックマンとの共演は00年代以降も続き、お互いのリーダー作に参加しあう。また『No Boat』(1997)、『At Night』(2007)という共作も制作している。
1995年には初リーダー作『Flux』をギター・トリオでレコーディング。この作品は亡き父に捧げられた。
90年代には、ギジェルモ・クレイン・ロスガチョス(1994年~)、ビル・マクヘンリー・カルテット(1997年~2006年頃)といったバンドで演奏している。
00年代以降
00年代は90年代後半に引き続き、サイドマンとして膨大な数のレコーディングやギグに参加。代表的なものにダニー・マッキャスリン、ジェローム・サバグ、トニー・マラビーのグループが挙げられる。
2000年頃からは様々な著名ギタリストを輩出したポール・モチアンのエレクトリック・ビバップ・バンドに参加。ビバップ・バンド解散後もモチアンとは2010年まで活動を続け、リーダー作『Amorphae』(2010/2013)では最晩年のモチアンをレコーディングに迎える。
また、自身のレコーディング活動ではジャズにクラシック、現代音楽、ロックなど様々な要素が絡み合うアンサンブル作品『Excavation』(1999年収録)、『Oceana』(2004年)、『Hydra』(201?年)のシリーズを制作する。
2010年代はこれまでの作曲活動に区切りをつけ、2015年にはフリー・インプロヴィゼーション系の作品『Amorphae』を、2019年にはバート・バカラックやジョージ・ハリスンら著名なソングライターの楽曲をカバー・編曲した『Day After Day』をリリース。またデヴィッド・ボウイの遺作『★』(2016)にも参加している。
- 2002年から2005年の3年間、ニューイングランド音楽院で教鞭をとっている。
作品
1997 – Flux
1997 – Dust
2000 – Excavation
2005 – Oceana
2013 – Hydra
2015 – Amorphae
2019 – Day After Day
発言
まず自分の才能を信じること。そして、自分のやっていることが正しいのか、間違っているのかの判断を他人に委ねない。それに、アーティストとして自分が共感したものに対しては、自立した意見なり評価を持つべきだね。あとは一生懸命音楽をプレイするだけだよ。
(Jazz Guitar Book)
- もっとも記憶に残っている音楽的なターニングポイント(musical moments)やコラボレーションはシンガー、セオ・ブレックマンと20年間続けてきたデュオ。「彼のヴォイスと音楽に対するアプローチは私の作曲と演奏に多大な影響を与えてきました」他には90年代前半に活動したマーク・ジョンソンとのトリオ”ライト・ブレイン・パトロール”をあげている。「マークとパーカッショニスト、アート・トゥンクボヤシアン(Arto Tuncboyacian)のタイムに対する感覚とサウンドへの気配りは、私よりも成熟し高いレベルでした。そしてそれは重要な学習体験だったのです」それ以外では、ポール・モチアン・グループ、ビル・マクヘンリー・カルテット。(2016, All About Jazz)
- 作曲時、あらかじめ「作品の90%を記譜された音楽でやろう」という意図があるわけではない。結果的にそうなってしまい、必然的にジャズギタリストであるにも関わらずギターソロがほぼ無い作品ができあがる。(2006, All About Jazz: When I started thinking…kind of what happened.)
- ECMは高校時代から聴いており、キース・ジャレット、ポール・モチアン、テリエ・リピダル、エグベルト・ジスモンチを高く評価している。「彼らの美学は僕に大きな影響を与えてきた。だからこのレーベルでリリースしたということは、とても意義深いことなんだ」(2016, All About Jazz)
好きな音楽
好きな音楽家・作品 | |||
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時期 | ジャンル | 音楽家・作品 | 出典 |
10代前半 | ロック | ビートルズ | 準備中 |
映画音楽 | 『ジェームズ・ボンド』や『2001年宇宙の旅』のサウンドトラック | ||
10代半ば | ロック | ジミ・ヘンドリックス、ジェフ・ベック、エリック・クラプトン、70年代ラジオが放送していたロック | |
ジャズギター | ジョー・パス『Virtuoso』、ウェス・モンゴメリー、バーニー・ケッセル、パット・マルティーノ、ジョン・コルトレーン『Love Supreme』(以上2016, Dawsons Music)、ジム・ホール、ジョン・ストーウェル、ローン・レーバー | ||
80年代 | ブラジル音楽 | エグベルト・ジスモンチ | 2006,All About Jazz |
2002年 | 現代音楽 | アルフレート・シュニトケ『Psalms of Repentance (1988)』モートン・フェルドマン『For Bunita Marcus』 | 2002,All About Jazz |
2005年 | 現代音楽 | コンロン・ナンカロウ『Studies for Player Piano』チャールズ・ウォリネン『Lepton』の”Time’s Encomium” | 2005,JazzTimes |
メタル | メシュガー『Catch Thirty-Three』 | ||
ジャズギター | ジーン・バートンシーニ『Quiet Now』 | ||
インド音楽 | ニキル・バネルジー『Sitar: Live Concert Volume 7』 | ||
2012年 | Various | パット・マルティーノ、ティム・ミラー、ネルソン・ヴェラス『Solo Session』、クラシック、昔のジャズレコード(特にソニー・スティット) | 2012, PlayJazzGuitar |
00年代後半 | クラシック | シェーンベルク”弦楽四重奏曲第4番”、ウェーベルン”交響曲” | 200?, macao |
お気に入りの参加作品(2002, All About Jazz)
クリス・チーク『A Girl Named Joe』
リード・アンダーソン『The Vastness of Space』
ロック・ミュージシャン、ルペル・オルドリカの作品。『Dabilen Harria』『Hurrengo Goizean』などに参加
お気に入りの参加作品(2016, Dawsons Music)
ベン・モンダー『Hydra』
デヴィッド・ボウイ『★』
リード・アンダーソン『The Vastness of Space』
トニー・マラビー『Paloma Recio』
影響源
トランスクライブしたミュージシャンはサックス奏者、特にジョン・コルトレーンが中心。他にもジョン・スコフィールド、ウェス・モンゴメリー、パット・マルティーノを数曲。
ハーモニーで影響を受けたミュージシャンはピアニストが中心で、ハービー・ハンコック、ビル・エヴァンス、マーク・コープランド。「20年前当時から、マークはとても魅力的なハーモニー・センスを持っていたんだ。それから20世紀の現代クラシック音楽も、ハーモニー感覚を養う上では随分役に立ったね」
次にジミ・ヘンドリックス、ジェフ・ベック、エリック・クラプトン、70年代ラジオが放送していたロック。
ジャズ・ギタリストとしてはジム・ホール、ジョン・ストーウェル、ローン・レーバー(16歳の頃会った、3歳年上のギタリスト。現在はギター講師として活動)。
アル・ディ・メオラ、ラリー・コリエル、ジョン・マクラフリン、ヤン・アッカーマン、リック・デリンジャー、アラン・ホールズワース、スコット・ヘンダーソン
ラルフ・タウナー、エグベルト・ジスモンチ、ヘラルド・ヌニェス、ショーン・レイン
ウェズ・モンゴメリー、パット・マルティーノ、ジョー・パス、ジョージ・ベンソン、チャック・ウェイン、バーニー・ケッセル、ジミー・レイニー、ジョニー・スミス、タル・ファーロウ
ジム・ホール、エド・ビッカート、ローン・レーバー(Lorn Leber)、マーク・シュルマン(Marc Shulman)ジョン・スコフィールド、パット・メセニー、ビル・フリゼール、テッド・グリーン、ジョン・ストーウェル、ゴードン・ゲインズ(Gordon Gaines)、カート・ローゼンウィンケル
カート・ローゼンウィンケル、ジュリアン・ラージ、ティム・ミラー、ジェフ・マイルズ(Jeff Miles)
他のミュージシャンについて
ポール・モチアン
Q ポールはなぜ多くのギタリストを一緒に起用したと思いますか?
「うーん、皆目見当がつかない(笑)。80年代のクインテット・アルバム等から感じるのは、多くのサウンドを混在させることによってソニック・ウォール(音の壁)を作り出し、そのテクスチャー(音の構造)から幾つもの選択肢を見出そうという試みだったのではないかと思うけど」(Jazz Guitar Book 29)
マリア・シュナイダー
「マリアは本当に面白いギター・パートを書く。彼女のギターの使い方のセンスは素晴らしい。独自の書き方であって、ただギターでホーンセクションのラインを強調するだけではないんだ」(2002, All About Jazz)
評価
石澤功治
クリーンなサウンドで浮遊感に満ちたプレイをしたかと思えば、ファズ系の歪んだトーンでブチ切れソロを披露するなど、ビバップからアヴァンギャルドまでフィールドは実に広い。常にアンテナを張り巡らしているかのような先鋭的なセンスはプログレッシヴ・ジャズという呼称がぴったりだ。(NEW YORKジャズギター・スタイルブック)
楽器
準備中
出典
雑誌/ムック
(2005) Jazz Guitar Book 7 by 石澤功治
(2011) Jazz Guitar Book 29 by 高梨学
(2013) NEW YORKジャズギター・スタイルブック by 石沢功治
ウェブサイト
(200?) Macao by Pierre Villeret
(2002) All About Jazz by Phil Di Pietro
(2005) JazzTimes by David R. Adler
(2005) Songlines by Tony Reif
(2006) Abstractlogix by Phil Di Pietro
(2006) All About Jazz by Paul Olson
(2007) Songlines by Tony Reif
(2010) Guitar Player Magazine by Barry Cleveland
(2011) Guitar Salon International by Matt Warnock
(2011) The Purple Cabbage by Purple Cabbage
(2012) PlayJazzGuitar.com
(2016) Dawsons Music by Lee Glynn
(2016) All About Jazz by Nenad Georgievski