友金直人、ライヴ直前インタビュー|東京から発信する現代ジャズオーケストラ

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世界的に日々進化し続けるラージアンサンブル・シーン。アメリカやヨーロッパのオーケストラが話題になることが多いが、日本で活動するリバウォート・ラボ/Liverwort Labもそれらに負けないほど独創的で印象的なバンドだ。

人力ミニマル楽団・東京塩麹のメンバーを始め、ジャズやクラシック、ポピュラー音楽の分野で活躍する若手演奏者を集め、バスーン、マーチングバリトン、オペラ歌手など一般的なビッグバンドにはあまり見られない多彩な響きを貪欲に取り入れている。

楽曲はジャズをベースに格調高いソナタ形式や変拍子、12音技法、図形楽譜などを取り入れつつも、サウンドは郷愁や悲哀、優しさにあふれ、ユーモラスなセンスも光る。こういう言い方が正しいか分からないが、作曲者の人柄が偽りなく反映されているような気がした。今回は、そんなリバウォート・ラボのリーダー/作曲家で、8月31日に渋谷・公園通りクラシックスでのライヴを控える友金直人さんに話を聞いた。

インタビュワー:北澤&福田 葉介

リバウォート・ラボのTokyo TUCでのライヴ 撮影:星野泰晴

◆昔からジャズやクラシックの演奏をしたり、作品を聴いたりしていたんですか?

ピアノは家にあったものをちょくちょく触ってましたが、特にレッスンをしたことはなかったです。きちんと練習を始めたのは大学のビッグバンドサークルに入ってからですね。

音楽は父親の持っている歌謡曲やポップスが好きで聴いていました。サザンオールスターズや小田和正など。それが僕のメロディの源流になっているのは最近よく感じます。大学のサークルではミシェル・ペトルチアーニが好きになり、彼の曲をずっと演奏していました。シンプルだけど心に入ってくるメロディは、歌謡曲と同じく自分の根本にあります。スティーヴ・ガットとのトリオが好きで、『ライブ・アット・ブルーノート東京』がお気に入りのアルバム。クラシックは大学卒業後、作曲をするようになってからきちんと聴くようになりました。武満徹やストラヴィンスキー、ジャズ作曲家のギル・エヴァンスなどです。

◆クラシックではどんな作品に影響されましたか?

絶対に聴いてほしいのは武満徹ですね。これはもうほんとに影響された人なんで。有名な『ノヴェンバー・ステップス』よりは、『鳥は星型の庭に降りる』、『虹へ向かってパルマ』の2曲を聴いてほしいです。

あとは現代クラシックにポーランド楽派というものがあって、そのひとりであるヘンリク・グレツキの『交響曲 第3番』がお勧め。この作品ではマリア・シュナイダーの作品でも歌っているドーン・アップショウが参加してます。それとヴィトルト・ルトスワフスキの『管弦楽のための協奏曲』、『チェロ協奏曲』にも影響を受けています。

あとはシェーンベルクだったりメシアンだったり。メシアンはキャッチーな『トゥーランガリーヤ』と最高傑作である『峡谷から星たちへ』が好きです。

武満徹『鳥は星型の庭に降りる』

ヘンリク・グレツキ『交響曲 第3番』

◆今まで師事した方からはどのようなことを学んだんですか。

大学卒業後は愛知県に就職して、仕事のかたわらピアニストの水野修平さんのレッスンを受けました。彼には「ビバップを聴け」と何度も言われました。2011年に東京に出てからは国立音楽院に入学して、三木俊夫さんとトム・ピアソンに師事しました。三木さんにはバップの理論を教えてもらい、ここでバリー・ハリスのメソッドを勉強しました。トム・ピアソンには作曲を教えてもらい、最初の授業でいきなり12音技法で作曲しろなんて言われました。

トムの授業では毎週楽曲を作るよう言われました。「今週はソナタ形式を作れ」「ビッグバンドの曲を作れ」「クラシックのオーケストラ曲を作れ」…と。どんどんグレードアップしていって。2年経って彼のレッスンを卒業する時に、「自分でビッグバンドを作って運営しろ」と言われて結成したのが今のビッグバンド、リバウォート・ラボです。

◆卒業してバンドの活動を軌道に乗せるまではどんなことをやっていたんですか

卒業後はピアニストとして都内で演奏活動しながら、作曲をしていました。現代ジャズのアンサンブルを意識し始めたのは、バンドメンバーにもOB・OGが多い慶應ライトから作曲を依頼されたことがきっかけ。それまでは現代音楽を取り入れつつもストレートアヘッドな曲も混じっていましたが、この時を境に現代的なジャズアンサンブルを書き始めました。

またリバウォート・ラボの編成は『Miles Ahead』(1957年)あたりのギル・エヴァンスを意識しています。バスーンが入っているのは、ストラヴィンスキーの『春の祭典』の影響ですね。


リバウォート・ラボ 1stアルバム『Graceful Metaphors』(Bandcamp)

◆それから作曲とライブを重ねていって、2018年に1stをリリースしたわけですね。収録曲について解説してもらっていいですか。

“軍島C”はテーマのモチーフ(主題)をひたすら繰り返す作品です。複雑に聞こえるかもしれませんがテーマや低音の対旋律を繰り返しているだけの意外とシンプルな曲です。この曲はメロディや転調、盛り上げ方の点でヒンデミットの『四つの気質』に影響を受けています。ヒンデミットのメロディは途中でガラッと転調するように聴こえるものが多く、それが好きで僕の他の曲でも使っています。主題を繰り返すシンプルなコンセプトも『四つの気質』と一緒です。

“Letter from the Moon”はリズム的にはミゲル・セノン『Identities Are Changeable』(2014年)のタイトル曲から着想を得ました。この曲のリズムが1.5拍取りで、それがやりたかったんですよね。

またこの曲は「月からの手紙」という僕が考えたオリジナルの物語のテーマ曲です。この物語のために書いた曲が場面ごとにいくつかあって、セカンドアルバムはそれらを全てやるのが目標です。ダーシー・ジェイムズ・アーギューの『Brooklyn Babylon』のような物語を映像込みで表現する映画音楽のようなものを目指しています。

“12Tone”はシェーンベルクの12音技法を元にしています。特に彼が無調音楽をやり始めたばかりの『月に憑かれたピエロ』の時期に。12音技法的なアプローチだけだと音楽的に聴こえないことが多いので、要所要所にジャズの半音階的なコード進行、親しみやすいメロディやテーマを取り入れています。

Illustration by Shinichi Nakayama

◆『月に憑かれたピエロ』の時期は、第一次世界大戦後に「12音技法」という名前がつけられて体系化する以前の、割と直感的な形で無調音楽を作っていた時期ですよね。

この時期のものは後々よりも聴きやすいのは確かだと思います。ただ、技法的には『月に憑かれたピエロ』も確かに12音技法の香りがしますし、十分精密に作られていると思いますよ。

12音技法はオクターブ内の12個の音を1個づつ使った音列を作り、それを用いて一般的な調性感から外れた曲を作るために考えられたものです。シェーンベルクの戦前の曲は、その音列同士の「つなげ方」が感覚的か、システマチックかどうかという意味では、直感的と言えるかも。『月に憑かれたピエロ』でも技法的には使ってはいけないにも関わらず同じ音の繰り返しが出てきて、後々の作曲家が見たら調性音楽に聴こえるくだりもあるので。

あとシェーンベルクの話で思い出したんですが、バリー・ハリスが「自分の音楽の根底にあるのはシェーンベルクだ」と言っていました。彼は伝統的なバップの指導者というイメージですが、実際のハリスの音楽は独特で非常に難しいんです。ワークショップでもシェーンベルクの話をしているんですよ*1

“Gently Weeps”は普通のバラードです。個人的にはデューク・エリントンのバラードを目指して作ったのですが、マリア・シュナイダーの”Sky Blue”みたいにもうちょっと演奏者に弱音を意識させたほうがよかったかな。あまり「マリアに似ている」と言われたくないですが(笑)。

全曲そうですが、盛り上がりで金管の音を強調しない、ビッグバンドの定石に反したアレンジをしました。高音域はトランペットに担当させず、木管の高音楽器(フルート、ソプラノサックス、クラリネット)に担当させました。低音域はチューバ、バスーン、テナーサックス、トロンボーンにやってもらい、金管的な響きを避けています。

こうした透明感があってなめらかな響きは弦楽、ストリングスを意識してます。これは結成当初から考えていたことで。トランペットを強調したアレンジはモダン時代のビッグバンドだけでなく、マリア以降の現代ビッグバンドでも割とありますが、自分はそれとは違ったサウンドを目指しているつもりです。

◆弦を取り入れているジャズ作品で意識したものはあるんですか?

弦入りではウィントン・マーサリスの『Hothouse Flowers』(1985年)、あまり有名じゃないですがボブ・ベルデンの『Black Dahlia』(2001年)。結成時好きだった弦入り作品はこの2つですね。弦入り以外では間違いなくエリントンの『女王組曲』(1976年)。その中でも1曲目がめちゃめちゃ好きです。エリントンでは”Reflections in D”も良いですね。

“Graceful Metaphors mv.1”は4楽章からなる古典的な交響曲の1楽章目で、ソナタ形式で書かれています。他の3曲はまだ書いてませんが。

◆いきなり素人っぽい質問で恐縮ですけど、クラシックを長く聴いている人はソナタ形式*2のどのような部分に注目して聴いているんですか?ソナタ形式を聴く時のルールやお約束ってあるんでしょうか。

ソナタ形式で書く理由は、リスナーに主題を覚えてもらうためです。作曲家が「自分の考えた素晴らしい主題をリスナーの心に訴えるためには、どうやって書いたら良いのか?」といって考え出されたのがソナタ形式。聴く人によってはこれが主題で、ここが展開部だなってすぐに分かると思います。バッハやモーツァルトなど昔のものは特に。分からない人はサウンドを聴いてもらって、分かる人は聴き終わった後に「この主題良かったね」ってなってもらえれば、作曲者的には大満足なんじゃないでしょうか。

第1~4楽章からなる“Graceful Metaphors”は、今まで学んできた作曲の展開のやり方を1回まとめ直そうと思った作品です。メロディの展開の仕方、楽曲の展開の仕方を。その展開の仕方を、楽章が進むにつれてどんどん複雑になるように書きました。このアルバムに収録されている第1楽章が一番簡単で、第2楽章はちょっとむずかしくて、第3楽章はめちゃめちゃ難しくて、第4楽章はだれが聴いてもわからないようにしようと思ってます。

◆良いですね。そういうの好きです。

第1楽章をシンプルにするためには古典的なソナタ形式で書く必要があると思って。主題は聴いたらすぐに分かると思いますし、繰り返し出てきます。むしろそうやって古典的にしたほうが、今の現代ジャズに合うのではないかと。

昔ジョージ・ラッセルの『Electronic Sonata』(1969年)を聴いてみたんですけど、ソナタ形式の楽章は含まれていなくて、「これはなんだろう?」って思ったんですよね。逆に僕は古典的なソナタの手法に則ったジャズアンサンブルを書く必要があると考えました*3

◆古典的なソナタには第1楽章にソナタ形式を持ってくることが多いですよね。

第1楽章をソナタ形式で書くかどうかは年代によって全然違います。最近の交響曲(=管弦楽のためのソナタ)は必ずしもソナタ形式で始まるわけではないし、そもそも含まれておらず、組曲と区別がつかない曲もあります。ラッセルは現代的な意味でのソナタを意識したんでしょうね。

あと、”Graceful Metaphors”が全体を通して難解になっていくのはあくまでも裏テーマで、コンセプト的には恋人同士が語り合うような「愛の言葉」を表現しようとしています。カップルによって異なる愛の表現方法を、楽章によって表現していこうというのが狙いです。

最後の曲、“2つの残響と哀歌”はアルヴォ・ペルトの『アリーナのために』が好きで、彼が確立したティンティナブリ様式のパクリです。ティンティナブリ様式は基本的に旋律2つで作る作曲技法です。1つ目は曲のメロディ、2つ目は主和音のドミソ。2つ目の旋律はその曲のキーのドミソ(1度、3度、5度)以外は絶対に使いません。この技法は「コード感」というものが無いんです。そのティンティナブリ様式のスタイルを、自分なりに変化をつけて作ったのがこれです。

◆今までの解説を聞いて思ったんですが、友金さんは何らかの音列を発展させて曲を作るというよりも、イメージや物語から着想を得て作るタイプですよね。

そうですね。こういったコンセプチュアルな作品作りは武満徹、特に『鳥は星型の庭に降りる』から影響を受けています。武満は物語やイメージから作るタイプの作曲家です。『海へ』は「SEA」という文字そのものをモチーフ化して作っています。Es(ミ♭)、E(ミ)、A(ラ)という具合に。僕もそれを真似て”軍島Sea”(アルバム未収録)という曲を作ったくらいです。

それと物語性とか情景主義的なところはダーシー・ジェイムズ・アーギューさんからの影響も大きいです。彼の2作目『Brooklyn Babylon』の作品とコンセプトからは非常に大きな影響を受けてます。もちろん最新の3作目からも。

ダーシー・ジェイムズとDanijel Zezeljのアニメーションとの融合作品

◆バンドの特徴でもあるヴォーカルの役割はどう考えていますか?現代音楽的な作風にヴォーカルを入れるバンドは現代ジャズでもまだ少ないですよね。

ヴォーカリストに歌ものっぽいメロディはやらせたくなくて、基本的には楽器の一部として使っています。オペラ歌手を起用したのは、目指すサウンドが歌ものとは違うから。自分の楽曲はクラシックや宗教音楽に寄せて行きたいので。

あとダン・ワイス『Sixteen』(2016年)やスティーヴ・コールマン『Synovial Joints』(2015年)などで歌っているジェン・シューにもインスパイアされますね*4。それから先程言ったグレツキ作品のドーン・アップショウ。僕のヴォーカルの使い方は今は主旋律的に使っていますが、これからは対旋律的に使うなど色々と応用してみたいです。

◆最後にお決まりの質問かもしれませんが、最近ヤバイと思った若手ジャズ作曲家はいますか。

日本にもよく来ているケネス・ダール・クヌーセン/Kenneth Dahl Knudsenは、マリア的な要素を除けば自分のバンドに近いことをやっていると思います。彼の曲は、現代音楽の作曲家が晩年に傾倒するような宗教音楽的な響きを持ってるんです。『We’ll Meet in the Rain』(2016年)のタイトル曲はアルヴォ・ペルトの『鏡の中の鏡』を思い出させるようなサウンド。 ケネスが意識しているかは知りませんが、そういう宗教音楽的な部分にシンパシーを感じていますし、自分も取り入れているつもりです。

それからエリカ・セギーン/Erica Seguine。彼女はめちゃくちゃ楽器の色を混ぜるのが特徴で、どれが中心の色になるか分からないくらい。自分のやりたいことと近く、クラシックの影響もあって注目してます。他にはステファン・シュルツ、テイラー・ギルモア、ネイサン・パーカー・スミスも好きですよ。

ケネス・ダール・クヌーセン “We’ll Meet in the Rain”

エリカ・セギーン “The Ravine”

◆ありがとうございます。では8月31日の公演通りクラシックスの意気込みと、今後の目標を教えて下さい。

現在考えているバンドの方向性の1つとして、図形音楽や12音技法などもっと現代音楽に傾倒していくのも必要かなと考えています。やるならもっと嫌われるくらいにやれ的な。今回は冒険なのですが複数の図形音楽を書いて現代音楽的なサウンドに焦点を当てたライブにしようと思います。なので今回はヴォーカルは入れませんでした。難しいってのもあるし、ヴォーカルに嫌われたくないので(笑)。

で、真面目に答えると、クラシックスではセクションでのアドリブをこのバンドで上手くやれたらと思っていて。アンビエントやドローン的なものを指示する曲はすでに沢山やられていますが、それとは異なるものができたら嬉しいです。

友金直人:公式サイト Twitter You Tube

ライブスケジュール

8月31日 渋谷 公園通りクラシックス(詳細
Open: 19;30 Start: 20;00

図形楽譜を用いたTuning “A”

  1. 記事の長さの都合上カットしてしまいましたが、友金さんにはハリスのワークショップについて興味深いコメントを頂きました。「バリーハリスのワークショップはディミニッシュコードやダイアトニックコードの美しい使い方が非常に印象的です。また6th diminish scaleという彼独自の考えからくるサウンドは、伝統的な確かなものとベルクのような難解さが入り混じっていました。和音の押さえ方、流れはそのままアンサンブルに当てはめても良いくらいの完成されたものだと感じました」
  2. A → B → A’のような三部形式の曲。A(提示部)はテーマでここで2つの旋律的な主題が提示される。Bは展開部と言われる部分で、提示された主題を展開させて曲が展開されていく。そしてまたテーマA'(再現部)に戻るシンプルな構成がソナタ形式。AとA’ではキーが違ったりイントロ、アウトロがあったりと色々なパターンがある。
  3. ソナタとソナタ形式の違い:ソナタはソナタ形式を含む複数楽章からなる楽曲。昔はソナタの第一楽章にはソナタ形式の曲を持ってくるのがルールだった。
  4. シューもオペラのトレーニングを受けている